大統領夫妻の言動が尹錫悦(ユン・ソクヨル)前政権ほど赤裸々に外部に知られたことはこれまでなかった。例えば、尹錫悦前大統領の妻の金建希(キム・ゴンヒ)氏が高位公職者候補群に対する好き嫌いを具体的に示したという内容などである。執務室で決定された人事が大統領の退勤後に覆されたという話もある。
このようなことが積み重なって、最終的に「大統領の決定を覆す」真の権力序列の話が生まれたのだろう。大統領室だけでなく官界で金氏を大統領より上位の「VIP 0」と公然と呼ぶとんでもない事態まで発生したにもかかわらず、誰かが制止したという話すら聞こえてこなかった。
金氏が大統領夫人としての助言者ではなく、それを超える存在であることを決定的に示したのが、金氏に対する検察の捜査だった大統領には在任中、内乱罪と外患罪を除いて不訴追特権がある。しかし大統領夫人は一般国民と同じだ。疑惑が提起されれば、大統領夫人も捜査を受け、違法であれ、嫌疑なしであれ、最終決定を経る当然の手続きを踏まなければならない。にもかかわらず、金氏は前政権では大統領のように例外対象だった。捜査開始の例外は手続き上の例外など、さらに大きな特権につながった。嫌疑の有無にかかわらず、捜査によって早期に牽制されていれば金氏も慎んだだろうに、実際にはそうならなかった。
本当に深刻なのは、金氏が捜査を回避したり拒否したりしただけではないという点だ。金氏に有利に働くよう捜査指揮体系まで変更されたのだ。大統領の決裁なしには不可能な措置だ。代表的なのが、ドイツ・モーターズ株価操作疑惑事件の被疑者として金氏と対面調査するべきだと主張していたソウル中央地検長を、「非常戒厳」7ヵ月前の昨年5月に突然交代させた人事だった。新指揮部は、検事総長に内密で警護処の建物で金氏を訪問調査した後、不起訴処分を下した。当時の検事総長は「法の上に一人でもいるなら民主共和国は崩壊する」と反発したが、金氏の立場からすれば、ソウル中央地検を事実上の弁護団のように活用したと見なすことができる。振り返ってみると、金氏のための検察の「意図的な捜査失敗」も同然だった。
尹氏は在任中、3度も「金建希特検法」を拒否した。主に結婚前の疑惑だとか、権力型不正ではないという理由だった。しかし戒厳後に早期政権交代となったことで、金氏は今や株価操作疑惑だけでなく、ブランド品受領、各種人事および公認介入など、少なくとも16件の疑惑で捜査を受ける立場となった。捜査対象は前大統領夫妻だけでなく、金氏の母親、母親のビジネスパートナー、金氏の兄、兄の義母など、事実上「金建希ファミリー」へと拡大された。疑惑の構図も、誰が見ても権力型不正に近い。
金建希特権の出頭要請を金氏が拒否しなければ、6日に初めて捜査機関のフォトラインに立つことになる。これまでの金氏の振る舞いは、現野党「国民の力」の相次ぐ選挙惨敗だけでなく、戒厳の引き金だったという見方まである。少なくとも尹氏の大統領就任前、遅くとも検察捜査チームの交代前にでも自ら捜査を申し出ていたら、状況は大きく変わっていただろう。
権力への警戒心を失い、特権意識を当然視した金氏の責任が最も大きい。しかし「金建希ファミリー」の特権意識を育て、幇助したのは検察だった。原則通りに捜査すると言う検事は一人もおらず、世間でかなり知られた彼らの疑惑をまともに糾明しようとする者もいなかった。「権力者」の監視と捜査を適時に適切に実施できるよう障害を取り除くこと、必要ならば捜査機関同士で二重三重に牽制し合い、競争させること、それこそが今後の捜査機関改編の核心とならなければならない。
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