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十字架のない十字架像

Posted November. 02, 2022 08:47,   

Updated November. 02, 2022 08:47

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素材だけでも十分悲しいのに、その裏事情が分かればなおさら悲しくなる芸術品がある。彫刻家權鎭圭(クォン・ジンギュ)の乾漆作品「十字架の上のキリスト」がそうだ。33歳の時に十字架刑を受けてこの世を去ったイエスを形象化した作品だ。ところが彫刻家は、麻に乾漆作業をしてイエスの形を作って悲しみを倍増させる。麻のざらざらした質感が、十字架にぶら下がったイエスが感じた苦痛と苦悩を反映しているようだ。

「十字架の上のキリスト」は、教会から依頼を受けて製作された作品だ。ところが教会は、もう少し洗練された聖像を望んでいたようだ。苦痛に歪んで憂鬱で多少平凡に見えるイエスの姿は、彼らの気に入らなかった。彼らは、神聖よりは平凡な人間性が目立つ姿を見ていらないと言った。私たちも違わなかっただろう。外見に関するこだわりは、我々も同じだろう。今は彼は偉大な近代作家だという評価を受けているが、私たちもあの時あの場にいたら、教会がそうだったように彼の作品を冷遇したのかもしれない。もっとも当代の評論家たちもそうだった。

作品に対する冷遇に傷ついた彫刻家は、作品から十字架を外して自分の作業室にかけた。それは彼が3年後に亡くなる時まで、そのような状態でかかっていた。「十字架の上のキリスト」という作品に十字架がない理由だ。ところが十字架の不在が、十字架をさらに喚起させる。見えないからもっと考えるようになるという。

作家がこの作品を製作したのは、自ら自分の人生を終わらせる3年前の1970年、48歳の時だった。彼は乾漆を通じて、イエスの最後の姿を再現しようとした。苦痛で歪んで荒くなったイエスの姿を描き出したかったのだ。人々は優雅さとはかけ離れたその姿にそっぽを向いたが、長い歳月が経ってから注目し始めた。ところが十字架のない「十字架の上のキリスト」は、一際長い腕を広げてずっと待っていた。今日のような苦痛と悲しみの中の私たちを抱きしめようとするように。