「官職まで捨てた天下一味、閻魔王もほれ込んだ味、海の熊の胆…」
夏場の珍味のうち、スズキほど物語の豊富な魚があるだろうか。スズキの場合、韓国に於いてはとりわけ物語やことわざ、異名が多い。一言で、「ストーリーテーリングの宝庫」ともいえる。慶尚南道統営(キョンサンナムド・トンヨン)には、 閻魔大王がスズキの刺身を食べたことのない死者を、「味見して来い」とこの世に送り返したという物語が伝わっている。よく季節ごとの代表的魚として、「春はイシモチ、夏はスズキ、秋は太刀魚、冬はトンテ(冷凍したスケトウダラ)」を取り上げる。全羅南道(チョンラナムド)海洋水産科学院が、スズキを「7月の旬の健康志向の水産物」に選んだのも、その理由からだ。
●初夏に脂肪含有量が最高
スズキは、南西海岸でよく取れる。全羅南道では、莞島(ワンド)地域が主産地となっている。天然のスズキは、養殖に比べ2倍も高い。3キロもの一匹で10万ウォン台、5キロのものは17万ウォン台だ。天然ものは養殖に比べ、黒色が薄く、綺麗な形をしている。尾びれは柔らかく、やや長い。養殖のスズキが増えたことを受け、スズキは季節を問わない魚だと誤解しやすい。天然のスズキは、7月と8月に不飽和脂肪の含有量が、ほかの季節より倍以上も高く、最も美味だ。冬に深海に潜り、初夏に沿岸に戻ってくる途中、カタクチイワシや針魚、はぜなどをえさにし、7月中旬以降、最も脂が乗る。日本にも「鱸落とし」(十月の雷のこと。スズキはこの音を嫌って深海に逃げるとされている)という言葉があり、夏が過ぎればスズキはあまり取れない。 全羅南道江津郡馬良面(カンジングン・マリャンミョン)ソジュン村のカン・チュンウォン漁村係長(51)は、「秋が深まれば、徐々に脂が減り、味が落ち、匂いも変わる」と話した。
稚魚よりは、体の大きな成魚のほうがより美味である。体長が40センチを超えてこそスズキと名づけられる。小さなスズキは、カルタグ(全羅南道順天)やチョルトギ(全羅南道莞島)、カジメギ(釜山などの慶尚道)などと呼ばれる。
●東医宝鑑にも出ている魚
スズキは、流線型の長くて弾力のある体をしており、「八頭身の魚」といわれている。なにより、刺身で食べるのが最もよい食べ方だ。薄くさばいたり、厚めに切ったりしても、スズキの刺身は、淡白で食感のよい味が一品だ。光州(クァンジュ)の和食専門店「カメ」を経営しているアン・ユソン代表(40)は、「スズキには、鉄分の吸収を助けるビタミンCが少なく、ビタミンCが豊富な大根の千切りなどの野菜に添えたり、レモン汁をかけて食べるのがよい」と話した。
スズキの胆のうは、「海の熊の胆」といわれている。スズキの胆で仕込んだ胆酒は、なかなか酔わず、飲みすぎた翌日の迎え酒として重宝されている。漢方では、スズキを五臓を丈夫にする代表的食べ物と取り上げている。許浚(ホ・ジュン)の「東醫寶鑑」には、「五臓を補い、胃腸をなだめ、筋肉や骨を丈夫にする」と紹介している。
スズキは、鍋料理として、また蒸してよく食べる。ちり鍋は、気力をなくしやすい夏に、野菜と一緒に食べればよい。昆布のだしに新鮮なスズキの肉や白菜、豆腐、そして貝を一緒に入れて煮込んで食べる。やや小さいスズキは、うろこと内臓を取り除いた後、塩をまき、水気を含ませた和紙に包んで、焼いて食べる。そうすれば、ビタミンDが豊富な皮を焼かず、固有の栄養素がそのまま生きている。






