次はお見合いの一シーン。ホテルのコーヒーショップに入った女が、男のみすぼらしいいでたちを目にし、まずため息をつく。しかし、男の一言で空気は様変わりする。「たいしたことではないが、親父の仕事の後を継いでいます。何とか食いつなぐことぐらいはできますね。ハハ」。
女は、いきなり目の前にダイヤモンドが浮かんでいるような気がする。「本当に質素な着方をしてますね」と、男をおだて女の関心は、今は会社の業種やその規模に向けられている。女があせりを感じ始めた時、男は話す。「父と一緒にたいこ焼き焼いてますよ」。面食らった女のぼっとした表情。
小説は、このように最初のシーンから笑わせる。作家は、ユーモア溢れる会話や状況を様変わりさせる設定で、読者を笑わせる。「徹底的に楽しく行こうと思って書いた」という作家の言葉通り、作品の中では、影を探すことが難しく、終始溌剌としている。
実は、人物設定や状況はさほど笑われるものではない。たい焼きの達人が父親の「僕」は、高校の時、ソウルの大学に入れるほどの成績だったが、たい焼きが好きで、その後を継ぐことを決めた。しかし、軍隊では馴染むことができず、「問題を抱えた兵士」となり、結局、軍生活の間中は、たい焼きのみ焼かされる「職務」につかされる。嫌気が差すほどたい焼きを焼かせ、トラウマに苦しんだ彼は、たい焼きに興味を無くし、除隊後、日本へのたびの途中、偶然、たこを入れるたこ焼きの達人に会う。
小説は単純だ。「僕」がたこ焼きの達人へと成長していく成長記録を描いたもの。小説をより立体的に作り上げたのは、「僕」の父親があきれることなく、「たい焼きの世界に戻って来い」と説得したこと、そして、「僕」の弟子となった任用試験準備生のヒョンジュとの恋物語だ。また、ドーナツを売る口数少ないユン氏、体は大きいが心は純朴な豚の腸詰を売るバク氏などの脇役らが、面白みを一回り大きくさせ、より豊かな味を出している。
最大の魅力は、素材の選択から輝いている。誰にも身近な存在である街角の食べ物であるたい焼きやたこ焼きに焦点を当て、その中から職人気質を引き出す過程が興味深い。たとえば、たこ焼きを作る錐を扱うのに適した手はどんな手か。「指が長くて、手のひらが広すぎてはならない。手のひらが広すぎれば、ひねる時、手首に少しずつ無理が生じ、長くたこ焼きを焼くことができない」。さらに、「僕」は、手と手首の感覚発達のため、ピアノのチェルニー30番まで練習する。
「たこ焼きの味は尻尾が決め手となる」、「たこ焼きは一粒、一粒同じようで違う味を出すべきだ」というたいこ焼きの達人らの言葉も興味深い。食べ物漫画の新世界を示した日本の漫画「ミスター寿司王」を読んだように興味深い。しかし、膨らんできた期待は、最後になってややがっかりさせられる。たい焼きの達人である父親とたこ焼きの浮上する新鋭の僕との対決シーンが、きちんと描かれていなかったためだ。予選のみあって、決勝を飛ばしたような気がするとも言うべきか。たこの無いたこ焼き、小豆の無いたい焼きをかんだように、何だか物足りなさを感じた。
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