男の性器の写真を自分のブログに掲載した放送通信審議委員会のパク・ギョンシン審議委員(高麗大教授)が、今度はギュスターヴ・クルーベが女性の性器を赤裸々に描いた作品「世界の起源」を掲載して「表現の自由」を主張している。そう言えば男性の性器を赤裸々に描写したルチアン・フロイトの絵もある。朴氏が批判しているのは、放送通信委員9人のうち、朴氏を除いた8人がわいせつ物判定を下して削除措置を取った写真を、自分のブログに掲載した行為のためだ。彼は、表現の自由の問題であるかのように、巧妙に論点をすり替えているいる。
◆英語の「レッド・ヘリング」(red herring)には燻製ニシンという意味の他に「人の注意を他に逸らすもの」という意味がある。燻製ニシンは臭いが強烈だ。獲物を追う犬が、その匂いを嗅ぐと混乱を起こして獲物を逃が易いため、逃亡者たちが良く持っていた魚だった。このような特性から、レッド・ヘリングは、論理学ではとんでもない方向に人の関心をそらして論点をぼかすことを指す。
◆レッド・ヘリングには、多様な手法があるが、人身攻撃がその一つだ。例えば、キリスト教の教理が論点なのに、突然牧師の非倫理的な行動を取り上げてキリスト教の教理を否定するケースだ。朴氏は、兵役逃れのために米国国籍を取得したと自ら打ち明けている。このような人を民主党が放送審議委員に任命したことについて非難の声が多い。だからと言って性器写真をめぐる議論に、そのような彼の経歴を持ち出して批判するのは、人身攻撃的なレッド・ヘリングである。だが、米国国籍者が韓国の敏感な懸案について、根掘り葉掘りと口出しする権利があるのかは別論に属する。
◆「カカシの虚偽」(the straw man fallacy)というのがある。論点を圧倒するさらに大きなテーマーを持ち出すことだ。「ビールに関する法を自由化するべきだ」という意見に対して、「中毒性物質に対する無制限的な接近を認める社会は滅びる」と反駁するような手口だ。包括的な中毒性物質をビールのカカシとして登場させるのである。朴氏の問題は、委員会の中で反対した事案だとしても、多数による決定が下されたら承服するという原則を違反したことだ。表現の自由は、ずっと広範な問題なのである。分野が芸術なのかどうかによって、それぞれ異なった議論が可能だ。レッド・ヘリングは、主に扇動に使われる手法である。
宋平仁(ソン・ピョンイン)論説委員 pisong@donga.com