10日午後4時。ソウル龍山区漢江路(ヨンサング・ハンガンロ)の龍山CGV劇場は、観客でにぎわっていた。最近、人気を集めている映画「アバター」を見るためである。同劇場の11の上映館のうち4つで、「アバター」を上映しているものの、午後4時半ごろは、ほとんどの座席が売り切れとなった。夫婦が一緒に劇場を訪れたオ・ジョムウン氏(61)は、「一月前にチケットを買った。まわりでしきりに『アバターを見たのか』といわれたので、見に来た」と話した。劇場側によると、アバター・アイマックス(IMAX=超大型画面での映画上映手法)3Dのチケットの前売り率は97%。劇場の関係者は、「8日午前に14〜27日分のアイマックス3Dの前売りを始めたが、前売り開始と共に販売が終わった」と話した。
●「アバターの前売りチケットを巡る取り合い合戦」
ソウル江南区驛三洞(カンナムグ・ヨクサンドン)の江南CGVも、家族連れで「アバター」を見に来た観客でにぎわっていた。ほかの映画とは異なり、シニアー層の多かった。松波(ソンパ)CGVも同様である。3人の子供をつれて映画館を訪れた会社員の朴ジョンデ氏(45)は、「龍仁(ヨンイン)に住んでいるが、アバターを見に松波まで来た。午前11時に着いたが、全て売り切れとなっており、午後4時30分のチケットを買って、時間をつぶしてからきた」と話した。それこそ「アバターブーム」である。10日、映画振興委員会によると、「アバター」は9日と10日現在、747万人が入場し、外国映画史上最多の観客記録(約744万人)を樹立した。
特に、この映画は従来の映画とは異なって3Dに制作されたため、大型の3D上映館で見てこそ、きちんと鑑賞することができるという口コミのため、「前売り券の取り合い合戦」が激しい。アイマックス映画館や一般の映画館で3Dで見たり、デジタル映画でみるという3種類があるが、3D上映館が少なく、前売りチケットを買うのは非常に難しい。会社員のソ某氏(46、ソウル大峙洞)は、「家族4人が一緒に見ようと、ネット上で2週間以上も前売り券を買おうと務めた結果、ようやく2枚だけ手に入れることができた。私と長男が先に見ることにし、家内と次男は後で見ることにした」と話した。「アバター」PR担当の李ミョンジン課長は、「3Dは1万3000ウォンと、一般劇場の価格の2倍近くもするが、より人気が高い」とし、「前売り券を買っても、少なくとも2週間以上待たなければならない」と明らかにした。何度も「アバター」を見た人も大勢いる。2D映画で見た観客が、3D上映館で見た後、再び3Dアイマックスで見るという。大学生の朴スファン氏(27)は、「2Dで見たが、映像が非常にすばらしく、再び3Dで見た」と話した。
●「アバター」パロディーなど、さまざまな流行が広がる、3D関連産業界はにっこり
映画の人気のおかげで、さまざまな「アバター遊び」が流行っている。インターネット・コミュニティには、オバマ大統領やサッカー選手のベッカムなど、有名人の写真を使い、肌色の青い映画中の「ナヴィ族」に変えた合成写真や、自分の姿をアバターに変身させた写真作りの遊びが広がっている。ネットユーザーらはまた、国会本会議場で居眠りしている国会議員らの写真を、「アバターにアクセス中の姿」だと紹介するなど、ユーモアの素材として使っている。
産業界もアバターブームの影響を受けている。映画がヒットした後、3D関連の株価が高騰しており、「アバター」を見るときに使用するSDメガネの普及も急増えており、今年中に5000万個を突破する見込みだ。映画界では、「アバター」を、今後の不法ダウンロードを防ぐ代案として取り上げている。3D映画は、パソコンのモニター画面で見れば、きちんと見ることができないためだ。会社員のバン・ジュンヨン氏(29)は、「普段はダウンロードして映画をみるが、『アバター』は劇場で見た」と話した。
●なぜ、アバターに熱狂するのか
映画関係者らは、「アバター」に熱狂する理由として、△3Dや巨大なスケールなどの華やかな見物、△家族連れの観覧に適していること、△米国一方主義を孕んでいた従来のハリウッド映画とは異なり、宇宙人や人間、自然が共存する相互主義を掲げていること、などを指摘している。しかし、「アバター」の人気ぶりは、「大ヒット映画」という映画的観点を超え、「社会的現象」が一緒に含まれているという指摘もある。
観客らは失業や就職など、息苦しい現実を忘れるのに、「アバター」に勝る映画はないと語る。会社員の朴ジェソク氏(38)は、「戦争の中で足を失った主人公は、自分と繋がっているナヴィ族の体にアクセスし、山や野原を走り回り、翼竜に乗って空を飛ぶなど、原初的な肉体を活かし、自然を走り回る姿が、大きな息抜きとなった」と話した。すなわち、人間に内在されている「原始」性への渇望を刺激したという。
国内特有のサイバー文化との関連性を指摘する声もある。主人公は足に障害を抱えている現実よりは、アバターにアクセスして活動する時に、むしろ生きているのを感じる。これはサイバー空間でのさまざまな活動により、アイデンティティを具現する国内サイバー文化とも似ており、このような点により、観客らに対する訴求力が大きかったという。文化評論家の金ホンシク氏は、「『アバター』の概念は、一人の本質ではなく見せかけに過ぎないが、映画では逆にアバターが本質となる」とし、「これは現実であれサイバー空間であれ、自分が願うことを遂げる空間や、その中の人生を重視する現代人の姿が反映されたものだ」と語った。
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