03年のイラク侵攻の時、米国政府は、イラクに大量破壊兵器(WMD)があると主張した。保守寄りの米国人34%が、これを事実だと信じた。04年に、イラク調査団が、これは事実ではないという「ドルファー・レポート」を発表した。しかし、「イラクに大量破壊兵器があった」と信じる保守層が64%に増えた。Aという情報が一度入力されると、後にAではないという事実が明らかになっても、Aだけが記憶に残るためだ。意図的に歪曲された虚偽の情報は、それゆえ恐ろしい。
◆米国産牛肉関連の文化放送(MBC)の時事番組「PD手帳」の放送台本が、制作当日に修正されていた事実が明るみになった。ソウル中央地検が、制作陣の電子メールの家宅捜索を行ない、台本の原本を発見して明らかになったのだ。翻訳の草稿と台本には、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)で死亡した米国人女性アレサ・ヴィンスン氏の母親が、「娘の死因はCJD」と言った部分が、一貫してCJDと表記されていた。ところが、最終の台本には、突然、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)と7、8ヵ所が修正されたのだ。検察は、制作陣がミスをしたのではなく、故意に歪曲したと見ている。「米国産牛肉を食べれば、人間狂牛病にかかって死ぬ」と認識させようという制作意図に合わせて、そのような歪曲を行なったと検察は判断している。
◆この放送を見て、少なからぬ人々が、「米国牛イコール狂牛病(BSE=牛海綿状脳症)」と言って、街にとび出した。女子中学生たちは、「15年しか生きていない」と言って泣いた。その後、米国産牛肉と狂牛病に関する「科学的真実」が報道されたにもかかわらず、まだ左派は、PD手帳の主張を信じようとする。PD手帳は、「政策批判というメディアの本来の機能をしただけなのに、罪人に追いやろうとしている」とむしろ大口を叩いている。
◆PD手帳は、政策批判をしたのではない。事実を勝手に歪曲して、国民に対して詐欺劇を行なったのだ。単純な誤訳やミスでもない。ならば、謝罪して、独自で浄化するのが正しい。国を混乱に陥れ、国の基幹を揺さぶったとしたら、犯した罪に対する処分を待っても足りない状況だ。「意図的な事実の歪曲が言論の自由」であるかのように、「言論弾圧の殉教者」のように振る舞う姿は鼻持ちならない。莫大な社会的波紋と国家的損失を引き起こした稀代の歪曲放送を、単なる鄭雲天(チョン・ウンチョン)前農林水産食品部長官らの告訴による名誉毀損事件へと縮小することは、果たして妥当なのだろうか。
金順徳(キム・スンドク)論説委員 yuri@donga.com