「こちらでは走ることそのものが希望です」。エチオピアの首都アディスアベバから東南へ200キロ離れたアルシ地域のアセラ村。丸1日半も飛行機に乗り、さらに乗用車で6時間走って到着したのは、マラソン選手の有望株、シンタイェフ・トロサ(15)の家。部屋の中にあるものといえば、適当に編まれた木の枝の上に置かれた毛布1枚がそのすべてだった。
トロサは泥底の上に布袋を敷いた1坪もない小さい空間で暮らしている。ここで寝泊りし、勉強し、年老いた祖母と姉と食事をとる。
しかし、トロサの夢は決して小さくない。限りなく広がっている草原を走ることのできる彼の夢は、世界的なマラソンランナーになることだ。トロサは東亜(トンア)日報と国際救護開発機関のワールドビジョンがエチオピアの陸上有望株選手を育成するため、昨年4月に開始した「エチオピア希望プロジェクト」の後援児童だ。
●マラソンはエチオピアの希望
5日午前6時半。トロサと同じ年の友だちであるメスピン・バジュはウォーミングアップをしていた。早朝から走るためだ。トロサをはじめ、10人あまりの子どもたちは毎日午前7時から2時間ぐらい練習をする。このため、5キロも離れているところを走ってきた子もいる。
青色のユニホームを着た子どもたちは本格的な練習に先立って、1時間ほどしっかりとウォーミングアップをする。
マラソンの世界記録(2時間3分59秒)保有者のハイレ・ゲブレセラシェ(36)を送り出したこの村の有望株らは、さすがに違っていた。草原を疾走する彼らの動きは、狩猟時代の素早い狩人を見るようだった。食べ物を追うかのように烈しく走る。プロの選手のように呼吸を調節し、相手をけん制しながら走り続けた。
希望プロジェクトはマラソンの有望株70人の体系的なトレーニングをサポートする。彼らが飢えることなく運動できるように、村の食料改善事業も支援する。
●劣悪な環境を乗り越える子どもたち
トロサはしばらく前に、それまでの靴磨きの仕事をやめた。未成年者の労働を禁止した政府の政策のためだ。彼は今、水を汲んで飲み物を作って売る祖母の仕事を助けている。
バジュは練習が終わると、玉ねぎを市場で売る母親の仕事を手伝う。母親は「運動だけ頑張ればいい」と言う。しかし、バジュはそうするわけにはいかない。月60ドルに過ぎない収入で5人の子どもを独りで育てた母親だったからだ。
トロサとバジュは6日、東亜日報とワールドビジョンがエチオピア州政府と共同で主催する「エチオピア希望マラソン大会」に出場する。
子どもたちは「我々には走ることが希望であり幸せだ」と口を揃える。走りは唯一の遊びでもあると同時に、エチオピアでは富と名誉を得ることができる一番の早道だ。
トロサは記者と会い、その喜びを隠さなかった。「アメセキナロ(ありがとうございます)」と頭を下げた。
トロサの祖母は、「孫が優秀なマラソンランナーになって有名になり、別れた親にまた会えるように祈っている」と話した。
同日の練習場にはユニホームを着た70人のほかにも、100人以上の貧しい子どもたちが羨ましそうに練習の姿を見守っていた。一部にはまねている子もいた。
あるエチオピアの少年は、「友だちが五輪でメダルを取って、うちの村が豊かになれるように助けてほしい」と話した。
トロサは家族と友だちの期待を胸に抱いている。彼が一歩一歩を足を踏み出すたびに、魂の込もった走りを見せる理由がここにある。
「走るたびに希望に少しずつ近づけているのが感じられます。韓国からたくさんの関心を寄せていただいて、とても感謝しています」。
エチオピア希望プロジェクトは東亜マラソンのホームページ(marathon.donga.com)とワールドビジョン(02-784-2004)を通じて後援できる。
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