Go to contents

偉大なる母情、死神も粛然となる

Posted October. 05, 2006 07:12,   

秋夕(チュソク=旧暦のお盆)控えて、死を持って母情を示した事件が相次いで起きた。二つの事件は共に、夫と死別して貧困生活をしてきた人が不時の災難に見舞われたもので、さらに心が痛む。

夕闇せまる3日午後6時57分ごろ、釜山市影島区東三洞(プサンシ・ヨンドグ・ドンサムドン)のチョンハク母子院の前の坂道。購入して7年目になる赤い中古のアトス乗用車が、坂道を上がる途中で止まっていた。

社会福祉施設に住むほど貧しい生活ではあるが、チョン某(41・女)氏は移動距離の長い浄水器会社のフィルター交換社員として働いているため、思い切って40万ウォンでその車を購入した。

ちょうど叔母の住んでいる母子院に遊びにきていた姪の金某(4)ちゃんを、自宅まで送り届けようとして出てきたところだった。姪と息子(8)を車に乗せたチョン氏は、自分の妹にあげる贈り物を積み込むため、車の後ろに回ってトランクを開けた。

その時、車が坂道に沿って後ろに動き始めた。後部座席にいた息子が、母の横に座ろうとして前の座席に移ったが、誤ってハンドブレーキを動かしたのだ。

一瞬、「何かおかしい」と思って、力で車を止めようとした。しかし、車は止まらず5〜10度の坂道に沿って下り始めた。

車がそのまま下ったら、加速度がつき、鉄条網を破って、マンションの壁の外側にある絶壁から転落しかねない危ない瞬間だった。

チョン氏は死に物狂いで車を支えながらがんばった。車の重さだけでも約800キロ。息子と姪への思いで、超人的な力で持ちこたえながら、16メートルぐらい後ずさりした。約2メートル後ろには鉄条網がある。

しかし気力が尽きたチョン氏は、鉄条網の2メートル前で、右側に倒れてしまった。アスファルトに頭を打ち、体は車の下敷きになった。20秒前後で起きた出来事だったので、隣人らもどうすることもできなかった。

目撃者の李ギョンスン(39・女)氏は、「チョン氏に早く逃げるように叫んだが、車の下敷きになる最後の瞬間までがんばった」と語った。

隣人たちは救急車を呼んで、それまで生きていたチョン氏を近所の病院に運んだが、搬送の途中で命を落とした。チョン氏の死亡原因は頭蓋骨損傷(脳震盪)と圧死。

アトス乗用車は鉄条網に引っかかり、絶壁から転落することなく、姪と息子は無事だった。

死体安置所で妹を見守っていたチョン氏の兄(45)は、「8年前、夫が癌で亡くなった後、息子と一緒に生活するため、あれほどがんばってきた妹が、どうしてこんな目にあわなければならないのか」と涙ながらに訴えた。

同日午後7時、釜山東区草梁洞(プサン・ドング・チョリャンドン)住宅街にある2階建ての1階の借家。カラオケボックスでの仕事を終えて帰宅したチョン某(28)氏は、それまで深い眠りに落ちていたが、いきなり熱い火の気配を感じた。

チョン氏は「火事だ!」と叫びながら外に飛び出したが、息子のシン(6)君の姿が見当たらなかった。母の隣で寝ていたはずの息子が、火事の起きたことも知らずに深い眠りに落ちていたと分かった時には、もう火の手か部屋を飲み込んだ後だった。

3年前、夫を交通事故で亡くし、溺愛してきた息子がいないことを知り、チョン氏はなりふりかまわず炎の中に飛び込んだ。

しかしチョン氏は、地団太を踏みながら待っていた隣人たちの期待とは裏腹に、ついに外には出てこられなかった。

警察は「チョン氏は部屋で、窓側に向かってうずくまったまま死んでいた。息子もその隣で同じ姿勢で死んでいたことから、チョン氏が窓を見つけて、息子を連れ出そうとしたとき、煙を吸って窒息して死んだものと見られる」と述べた。

チョン氏は夫を亡くして、8歳と6歳と2人の息子を育ててきたが、基礎生活受給者で生活が苦しくなってきたため、最近、長男を釜山の夫の実家に預け、次男と共に暮らしていたと言う。



silent@donga.com