驚くべき監視構造の監獄を創案したのは、何と英国の法学者であり哲学者であるジェレミ・ベンサムだ。彼は1791年に、「パノプティコン」という全展望監視システムの監獄を設計した。中央に円形の監視塔を外円に沿って監房を作る。囚人同士、向かいの部屋の動きが一目で分かるため、自律的な監視というわけだ。監視塔内は暗く監房は明るくして、看守の視線がどこに向いているのか分からないようにした。囚人は安心できず、身動きできない。
◆「パノプティコン」のような社会が来ると言ったフランスの哲学者ミシェル・フーコーの予見が当たったのか。現代人は、誰かが自分の通信秘密をのぞき見ているのではないか、被害意識に捕らわれながら暮す。携帯電話の位置追跡や通話記録の照会は日常的に行なわれる。電子メールは、本人が削除しても、通信会社が復旧できる。しかし個人は「安保テロ」防止を叫ぶ国家情報機関の中をのぞき見ることはできない。個人は裸の「囚人」というわけだ。
◆米国家安保局が「テロ防止」を掲げて、数千万人の通話記録を照会したため、騒々しくなっている。ブッシュ大統領は「アル・カイダを捕まえるためだ。政府は令状なしに照会していない」と釈明したが、怒りはおさまらない。議会では「数千万人がアル・カイダと関係があるというのか」と詰問する。電話会社のベルサウスやAT&Tなどにも火の粉が飛んだ。個人のプライバシーを侵害したのだから、2000億ドル(約200兆ウォン)を支払えという集団訴訟にあったのだ。
◆韓国では、1992年の釜山(プサン)「チョウォンふぐ料理店盗聴事件」をきっかけにして、通信秘密保護法が制定された。法の内容は厳しい。個人の対話の録音はもとより、公開・漏洩もできない。違反すれば10年以下の懲役だ。情報機関の盗聴も、「国家安保に相当する危険」でなければ、不可能だ。しかし、「法と現実は別物」であるため、安全企画部のXファイル事件のような醜い情報機関の盗聴が絶えなかった。民間でも、プライバシー侵害が日常的に起っている。米国のように天文学的な金額の賠償請求も時間の問題だろうか。
金忠植(キム・チュンシク)論説委員 skim@donga.com