国際化時代。世界の主要テーマに対しすぐに世界的な世論が形成され、かつその声も多様である。大義名分から立場が分かれることもあり、一方、大義名分は一致しても実際の行動が全く異なるということもある。4日に閉幕した世界環境サミットのように、環境保全という大義名分にはみな同意しても、実際の交渉では鋭く対立して幕を下ろすケースが後者の代表的な例である。ところで、先進国の間で大義名分と実際のいずれもが一致したケースがある。それはまさに反テロリズムである。1年前の同時多発テロ直後、米国がテロとの戦いを唱えるや、多くの先進国がこれに積極的に呼応した。
◆その後1年、反テロ対策が先進国を中心に強化されてきたが、その過程で相当な影響が目につきだした。米国では、アラブ系市民に対する人権侵害が増加した。イギリスは昨年反テロ保安法を成立させ、テロ容疑のある外国人を裁判なしに逮捕できるようにした。フランスやドイツも個人の通信と信用情報を政府が照会できる法案をもうけ、推進中である。オーストラリアは、数百人のアフガニスタン難民を収容所に拘禁し、そこでの非人間的な状況が明るみになると反テロで言い逃れた。
◆世界人権団体は、同時多発テロ以降、先進国が反テロを掲げて自国内に住む外国人の人権問題から目をそらし、彼らに対する人権侵害行為が爆発的に増加していると指摘する。さらに、少なくとも15カ国が反テロの大義名分のもと、移民者や難民などの社会的弱者の人権保護よりも、むしろその反対方向に政策を変えつつあると懸念する。これまで先進国は、押し寄せる移民者や難民に対して頭を抱えながらも、人権尊重の立場から寛容姿勢をとってきた。しかし、反テロが彼らを抑圧できるいい大義名分となったわけだ。これはこれら先進国の右傾化の流れとも一脈合い通じる。
◆幾分「対岸の火」的立場の韓国であるが、ふと約80年前の日本の関東大震災が思い浮かぶ。震災で東京など関東地方一帯が混乱におちいり無政府状態になるや、日本政府は逸早くこれを朝鮮人、中国人、さらに社会主義者の犯行であると宣伝して弾圧し、民心の収拾に利用した。罪のない民間人を犠牲にするテロ行為は、いかなる大義名分であれ受け入れることはできない罪悪である。しかし、テロを防ぐという大義名分で他の形でテロが行なわれるなら、これもまた逆説の罪悪といえる。テロを生みだす反テロは、もう一つの姿のテロなのだから。
金長権(キム・ジャングォン)客員論説委員(ソウル大教授政治学)jkk@snu.ac.kr






