
米国での学生時代、古びたジーンズにTシャツを着て学校に通っていたというヒョンガク(玄覚・俗名はポール・ミュンジェン・36)名僧。つぎはぎだらけのすりきれた緇衣(しえ・僧服)をまとい、23日約束の場所であるソウル、インサ洞のある茶房に現われた。熱心な信者が作ってくれた緇衣がないわけではないだろうに、すりきれた方が楽でいいということだった。
— すぐに洞窟に入ると聞きましたが。
最初の質問をした瞬間、記者の携帯電話が鳴った。うっかりして携帯電話を切るのを忘れていたのだ。
「電話をしょっちゅう使うと充電しなければなりません。あちこち法問をするために歩きまわりながら、口を動かしすぎて力が抜けてしまいました。私も29日に華渓寺で‘グッバイパーティー’をして山奥の庵に入り、百日の間完全に一人で黙言精進しながら充電するつもりです」。
— 説法であちこち飛び回って忙しいと聞いていますが…。
「今週は毎日が法問です。23日はソウル市チュンナン(中浪)区役所、24日は忠南大学、25日は培材(ベジェ)大学、26日は大田大学、28日は曹渓寺(ジョゲサ)で…」。
夏安居(げあんご)後米国に渡り、ニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルス等を回りながら、新世代の在米同胞を相手に1ヶ月間説法をし、このごろ一日もゆっくり休める日のない強行軍だ。
「私が特別なわけではありません。韓国人は今までアメリカのものを欲しがって、自分の持っているものがどんなに重要かを忘れていました。アメリカではリチャード・ギア、メグ・ライアン、トム・クルーズ等、ハリウッドスターたちは仏教に関心を持っています。韓国人が韓国のものを忘れないでと言っても聞く耳を持ちませんが、西洋人が韓国のものは大切だと言うとちょっと関心を持つようですね。
— スンサン名僧が活動を減らせと言ったという事ですが…。
「昨年、『万行‐ハーバードから華渓寺まで』を出版した直後、私のことを考えてくれたスンサン名僧にソウル市内をちょっと離れていろと言われたことがあります。韓国では生きるのが大変です。力のある僧に『来てちょっと話をしろ』と言われれば仕方ないし、また『助けてほしい、助けてほしい』と頼まれれば断ることもできません。アイ キャント エスケープ( I can’t escape )。韓国がとても好きで、韓国の人が願うことは何でもしてあげたいし、助けてあげたいです。
年長者の言葉に逆らえず、情にもろい姿は彼が韓国人になったという事だ。いや、彼は自分自身前世で韓国人だったと思っている。
— キリスト教信者が創造論の話をする時や、仏教徒が前世の話をする時は、どうして現代を生きる人としてそんな話ができるのかという思いを抱きますが。
「前世は仏教の教えではありません。お釈迦様がお出でになられる以前からあったものです。英語でコウズ アンド エフェクト( Cause and Effect・因果 )です。この茶房の明かりを消して、あちらから野球のボールを投げた瞬間スイッチを入れてみなさい。空中に浮かんでいる野球のボールを見ることができます。瞬間、ボールがどこからか飛んできて、どこかへ飛んでいくと考えなくても自然にわかります。前世、現世そしてその次の世も同じことです。
腕を振り上げてボールを投げるまねをして立ち上がり、少し離れてボールを受けるまねをした。ジェスチャーがオーバーなのは紛れもなくアメリカ人だ。
記者は一週間ほど前、金剛山(クムガンサン)へ取材に行き偶然、スンサン名僧に会った。スンサン名僧はテボン、ムシム、ムリャン等の外国人名僧を引き連れて金剛山の見物に来ていた。全世界にスンサン名僧の法弟子として認められている数が7百人で、皆一様に外国人だというのはちょっと変だ。
— スンサン名僧はどうして韓国の僧には法を伝授しないのですか。
「スンサン名僧がピョンヤン(平壌)にお住まいになっていた時、家に大きな農園がありました。古い樹木がおいしい果実を実らせることができない事をよく知っています。韓国仏教の伝統はとても古くて、韓国の僧たちはとても多くのことを知っていて、むしろ『ただ知らないのみという心( Only Don’t Know Mind )』がなかなか入らないと考えているようです。韓国の僧は単純で汚れのない経験を受け入れられないようです。
— スンサン名僧の法問を集めた「禅の羅針盤」の韓国語版はいつ出ますか。
「一ヶ月後に出る予定です。元々は97年に米国で『ザ コンパス オブ ゼン(The Compass of
Zen )』という題で出ました。人気がありましたよ。スンサン名僧があまり上手じゃない『キムチ英語』で説法した内容を集めたもので、『キムチ英語』を韓国語に直す時、その雰囲気がなかなか生かせなくて苦労しました。
ヒョンガク(玄覚)名僧は記者と同じ64年生まれです。まだ30代半ば。彼の欲望を尋ねてみた。
— お金とかセックスに対する欲望はどうしますか。
「その年ごろには当然なければなりません」。呆気に取られた。
「お金自体、セックス自体はいいものでも悪いものでもありません。それはただそのもので、それ以外の何物でもありません。それにどれほど執着するか、それがあなたをどれほどコントロールするか、それが問題です。
— 玄覚さんも気に入った女性を見たら欲望を感じますか。
「私も人間です」。
—(質問したついでに)スンサン名僧がよく「飲むときは飲むのみ、食べるときは食べるのみ」と言うように、「ただそうするのみと」言ってしまったらどうなりますか。
「(笑いながら)私も人間です。それ以外の他の答えはありません。お茶をどうぞ」。
昔、趙州ソンサというえらい人がいた。誰かが彼を訪ね、「道とは何ですか」と尋ねたとき、ソンサが言った言葉を思い出した。「お前さん、こっちに来て茶でもいっぱい飲みなさい(喫茶去)」。
宋平仁(ソン・ピョンイン)記者 pisong@donga.com






