母親は、貧しくて娘の世話ができなくなったら、娘の体に一生消えない表示を残そうと、右手の人差し指に墨汁を入れて、保育院の前に娘を捨てた。3歳の時、オランダに渡って養子として成長しながら、出生の秘密を解くには、指の入れ墨が端緒になるはずと確信するようになった。ウォン・ミスク氏(31、オランダ名=ワンダミエドマ)が韓国で生母を探すようになるまでは、指の入れ墨が決定的な役割をした。2ヵ月前、KBSの「朝の広場」という番組で、生母は28年前に見捨てた娘を抱きしめて泣き喚き、「根探し」に成功したウォン氏は、言葉が通じない生母の前で、静かに涙を流した。
◆世界最大の孤児輸出国、韓国では毎年数多い海外養子らが生物学的な親に会うため、祖国にやってくる。「朝の広場」の制作スタッフによると、養子の中では、思春期まで自分を捨てた親への恨みを持っていたと打ち明ける人が多いという。親側が必死の思いで子どもを探し出したにもかかわらず、「自分を見捨てた人が許せない」として会わないケースもしばしばあるそうだ。それが結婚を前にしたり、家庭を持って子どもを産んだ後は、親を許して「根探し」に乗り出す。
◆血族の観念が韓国より弱い米国では、里親を本当の親だと思い、生物学的な親のことは忘れたまま生きていく青少年が多い。しかし、中年以降になれば、家族の病歴を調べ、健康管理の目的で生物学的な親を探す人が増えているという。遺伝学によると、知能や性格は後天的に形成される面が多いのに対し、体質はかなりの部分を親から受け継ぐ。ガン、アルコール中毒などの疾病には、遺伝的素因がある程度働き、高血圧、糖尿、肥満、はげ頭は、親から子へ受け継がれる可能性が高い。
◆鄭夢準(チョン・モンジュン)議員が大統領選挙への出馬を表明する記者会見場で、生母の話をしながら涙ぐんだが、生母が誰なのかについては明かさなかった。今は嫡子を差別していた朝鮮(チョソン)時代でもあるまいし、鄭議員の出生に関連して攻撃する選挙運動がかえって逆風にさらされる余地もある。しかし、大統領候補になろうと覚悟を決めたからには出生の秘密が公論に付される覚悟もして当然だ。知っているところまで率直に明らかにし、みずから選択できなかったこと、責任を取る必要がないことに対して理解を求めた方が良いのではなかろうか。それでも鄭議員は、韓国経済の大黒柱を父親としているではないか。
黄鎬澤(ファン・ホテク)論説委員 hthwang@donga.com