フランス・パリ特派員として勤務していた当時、区役所は毎年、記者の勤労所得を10段階で評価した。所得が最も高ければ10等級、低ければ1等級だった。区役所は所得水準に応じて、子どもが通う公立学校の給食費を請求した。多く稼げば多く払い、少なければ少なく払う。毎年、ウォン建て給与をユーロに換算して等級が決まった。ところが任期最後の年である昨年に通知された等級は衝撃的だった。3年前に比べて3段階も下がっていた。給与は減っていないのに、ユーロに対するウォンの価値が下落したためだ。対ユーロのウォン相場はこの3年で1ユーロ=1360ウォン台から1ユーロ=1600ウォンを大きく超え、現在は1ユーロ=1750ウォンを突破した。ウォン安で思いがけず「一夜にして貧乏になった」格好だ。
かつてはウォン安が経済に有利と評価された時期もあった。輸出企業の製品のドル建て価格が下がり、その分価格競争力が上がるからだ。だが今は違う。原材料の輸入価格が上昇し、コスト負担が増大することが問題となっている。ウォン安の影響で韓国経済は見劣りしている。昨年、韓国の1人当たり国民総所得(GNI)は3年ぶりに日本と台湾に逆転された。低成長の影響もあるが、ウォン安が大きく作用した。多くの国民は、何もせずとも韓国経済の価値が目減りしていくのではないかと不安を募らせている。
こうした懸念とは裏腹に、申鉉松(シン・ヒョンソン)韓国銀行総裁候補は先月31日、為替について「大きな懸念はない」と述べた。彼の言う通り、危機だと大騒ぎするほどのことではない。しかしウォン安は目に見えない形で生活経済を蝕む。輸入物価を押し上げ、結果的に消費者物価も引き上げる。さらに懸念されるのはウォン安のスピードだ。中東戦争後の1カ月でウォンの価値は6%以上下落し、主要国通貨の中で最大の下落幅となった。
政府はウォン安の進行が特に速い理由の一つとして、海外に投資している個人投資家たちが米国株式市場へドルを流出させている点を挙げる。ただその背後にはより複雑な要因がある。米国の政策金利が韓国より高い状態が長期化し、高い利回りを求める外国人資金が流出した影響もある。さらに米国の関税圧力による対外依存度の高い韓国経済への不安も反映されている。
ウォン安の進行は当面さらに問題となり得る。今年7月から国内外国為替市場が24時間取引となれば、外貨の流通は一段と活発化する。外為市場の開放は長期的には変動性を分散させる可能性があるが、当面は就寝中に急激にウォン安が進むリスクを抱える。また対米投資特別法が6月ごろから施行されれば、ドル移動に拍車がかかる可能性もある。
ウォン安を抑制する手段も限られている。家計債務とスタグフレーション(景気低迷下の物価上昇)への懸念のため、韓国は容易に利上げできないのが現実だ。こうした中、「戦時補正予算」により、昨年の補正事業である「民生回復消費クーポン」(12兆1709億ウォン)の約40%に当たる現金が放出される。エネルギー脆弱層だけでなく中間層まで含む所得下位70%が対象だ。
資金を大量に供給し始めると、最初は良い効果が現れ、悪い影響は後になって表れる。酒を飲み始めたときは気分が良いが、後で二日酔いに苦しむのと同じ理屈だ。1960年代にスタグフレーション対策を提示したノーベル経済学賞受賞者ミルトン・フリードマンの言葉である。二日酔いが訪れる前に、物価高・ウォン安対策をより緊張感を持って精緻に講じるべきだ。
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