イスラエルの最高裁判所が1日、ネタニヤフ首相が率いる右派連立政権が昨年成立させた「司法制度改革」関連法を無効と宣言した。司法府の権限を大幅に縮小させ、政府の機能を強化したこの法案は、立法当時から現職首相として初めて裁判を受けているネタニヤフ氏自身を救うための「防弾用法案」という批判が強かった。これによる激しい賛否両論で、昨年は国論の分裂も深刻だった。
パレスチナ武装組織ハマスとの戦闘で一時的に収束したように見えたイスラエルの社会的葛藤も、深まるものとみられる。無効判決自体が、最高裁判事15人のうち8人の賛成、7人の反対で決定され、司法府の分裂の様相を露呈したからだ。ネタニヤフ氏が所属する与党リクードも判決を不服とした。今回の判決が、戦闘の長期化やパレスチナ民間人殺害などですでに指導力の危機に直面しているネタニヤフ氏にとって、さらなる悪材料となる可能性も高まっている。
●最高裁判事15人中8人「民主主義国家を損なう」
タイムズ・オブ・イスラエルなどによると、最高裁は同日、最高裁判事15人が全員参加した中、賛成8、反対7で昨年7月に議会が可決した「司法府に関する改正基本法」を無効とした。最高裁は声明を通じ、「この法が民主主義国家であるイスラエルの基本性格を深刻に損なうと判断した」と明らかにした。
最高裁は特に、政府の不合理な長官任命を審査する司法府の権限をなくす部分を問題視した。政府の独走を阻止する司法府の牽制装置をなくすだけでなく、首相が資格のない側近を要職に任命できるようにしたことから物議を醸した。
ネタニヤフ氏は2022年末に3度目の就任に成功した。2度目の任期中の汚職容疑で現在も裁判を受けているネタニヤフ氏が、就任してすぐ司法制度改革を推進したことで、自らを救済するために三権分立の原則さえも破ったという批判が国内外で噴出した。同盟国であるバイデン米大統領も繰り返し懸念を表明した。昨年3月からイスラエル各地で大規模な反対集会が行われたが、結局、法案は4ヵ月後に議会を通過した。野党の反発で、同年9月から最高裁が同法の適合性を審査し、判決が出されたのだ。
ただ、今回の判決をめぐる波紋と世論の分裂も相当なものとみられる。7人の保守寄りの最高裁判事が無効決定に反対するほど、司法府の分裂も懸念されるレベルだ。
政界でも賛否が分かれた。同法の設計者とされるレビン法相は、ハマスとの戦闘が終わり次第、法案を再通過させるための努力を再開すると明らかにした。ネタニヤフ氏よりも極右で有名なベングビール国家安全保障相も、「反民主的な決定」と反発した。一方、ラピド前首相ら野党指導者は、「最高裁が国民保護の義務を忠実に果たした」と歓迎した。
●窮地のネタニヤフ氏
今回の判決で、ネタニヤフ氏はかなりの打撃を受ける可能性が高い。また、ハマスとの戦闘状況にも少なからず影響を与えるものと予想される。
ネタニヤフ政権がハマスの先制攻撃を事前に認知できなかったという批判が依然としてある中、法案を再通過しようとすれば、ハマスとの戦闘で重要な役割を担ってきた予備軍が反ネタニヤフデモを再開したり、服務拒否を宣言したりする可能性があると、AP通信などが伝えた。予備軍は昨年、法案に反発して服務拒否を宣言したが、戦闘が勃発したため復帰した。米CNNも、「ネタニヤフ氏が物議を呼ぶ変化を強行する場合、憲政危機を招く可能性がある」と報じた。
イスラエル軍は1日、ガザ地区から今後数週間以内に数千人の兵力を撤収する予定だと明らかにした。これまで続いていた大規模な空爆と地上軍中心の交戦から低強度の作戦に転換するのは、民間人の犠牲を減らせとの米国の圧力によるものだと、CNNは伝えた。
カイロ=キム・ギユン特派員 pep@donga.com