
ピアノの白い鍵盤を順に弾いてみます。ド・シ・ラ・ソ・ファ・ミ・レ・ド。どんなリズムをつけても、結構「歌」らしくなります。今度は同じように黒い鍵盤をすべて弾いてみます。我々がよく歌う歌のリズム(メロディ)のような感じはしません。カップに水を注ぐ音とでも言うべきでしょうか。
10日、ソウル芸術の殿堂のコンサートホールで開かれる「ハンファ生命と共にする11時のコンサート」では、メゾソプラノのチュ・ヒミョンが、チェ・スンハンが指揮するコリアンシンフォニーオーケストラと協演で、モーツァルトとサンサーンスなどのオペラアリアを歌います。私が注目した歌は、サンサーンスのオペラ「サムソンとデリラ」のうち、「あなたの声が心は開く」、そしてビゼーのオペラ「カルメン」の「ハバネラ」でした。
二つの歌にはいくつかの共通点があります。フランス作曲家が書いたオペラアリアだということ、二つの歌を歌う役回りが、ともに男を誘って没落させたいわば、「ファムファタール(femme fatale)」ということ、そして二つの歌共に、半音ずつ下がる「半音階的下降音型」であるということです。
二人の作曲家が活動した浪漫主義時代、半音階が続く旋律は広く使われませんでした。世界の民俗音楽でも、半音階旋律はあまり使われていません。なぜ、二人の作曲家は半音ずつ下がる旋律を使ったのでしょうか。もしかして、二人のヒロインがファムファタールであることと関係があるのではないでしょうか。
「サムソンとデリラ」では、男女が同じ部屋にいる時、ヒロインが主人公を誘惑するシーンであり、「カルメン」では、街でジプシーの女が男の目を引こうと試みるシーンです。「サムソンとデリラ」のデリラは、旧約聖書の中のイスラエル人・サムソンを誘惑する異教徒のブレセットの女性であり、「カルメン」のタイトルロールは、スペインのジプシーです。「誘惑」と「異国的」ということで、二つの作品は共通コードを持っています。
今、再びピアノの前に座って、「ド」から鍵盤に沿って半音ずつ下がりながら弾いてみます。親しみやすいというよりは異国的感じ、そして正直というよりは気持ちを隠すかのような蠱惑的感じがします。誰もが作曲教本には書かなかったが、無意識のうちに共有することになる感じ。それこそ慣習の力であり、伝統の力とも言えるでしょう。






