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見張り役は誰が見張るのか

Posted July. 11, 2013 06:04,   

映画『エネミー・オブ・アメリカ』は、地球の上に浮かぶ人工衛星が地上で生活する人々の一挙手一投足を監視するシーンで始まる。陰謀に巻き込まれた主人公の弁護士は、わけも分からず情報機関に追われる。金融取引は停止し、携帯電話は追跡される。国家安全保障局(NSA)が主人公を追う理由は、NSAが盗聴を許可する法案に反対する上院議員を暗殺したのだが、偶然撮影されたその映像が主人公に渡ったためだ。スノーデン氏の暴露は、このような状況が映画の中の話でなく、リアルなストーリーになり得ることを示した。

米情報機関として中央情報局(CIA)は有名だが、実際にはNSAがより強大だということは知る人ぞ知る事実だ。NSAは地球上を流れるすべての信号情報(シギント)を扱い、存在自体がベールに包まれている。NSAは「そのような機関ではない(No Such Agency)」という意味だというジョークがあるほどだ。有無線の通信や暗号化された外交電文、放射線信号など信号という信号はすべてここで捉えられる。スノーデン氏は、NSAがプリズムというプログラムで、グーグル、フェイスブック、アップル、ユーチューブなどから犯罪の疑惑がない一般ユーザーの電子メール、通話内容、写真、動画を収集していた事実を暴露した。1日の盗聴件数が30億件にものぼるというから、その監視網にかからない人はいないと見なければならない。私たちは実際に「ビッグブラザー」と生きているのだ。

元CIA職員でNSA契約職員のスノーデン氏は、「すべての言葉や行動、感情表現が記録される世の中では生きていけない」と考え、監視システムの暴露を決心したという。NSAの盗聴が9・11テロ後に始まったという点は、情報収集の目的がテロ防止であったことをうかがわせる。

情報機関出身のスノーデン氏が、国家安保の重要性を知らないはずがないが、彼は国家安保のための盗聴許可の有無を国家ではなく大衆が判断しなければならないと信じた。しかし、公開された情報は情報としての価値を喪失するため、スノーデン氏の考えが正しいと言うことはできない。実際に彼の暴露後、アルカイダが通信信号を変えるなど、彼の行動は高い代価を支払っている。

韓国でも、学校、駐車場、路上に防犯カメラを設置する問題に対しては賛否がある。犯罪のない安全な世の中への要望が、人々にプライバシーの侵害を受け入れさせるということだ。国家安保とプライバシーのどちらの価値が優先されるのかという問題は、絶対的な基準があるわけではなく、その時その時の状況と人々の認識によって変わるほかない。

問題は、情報機関の情報が本来の目的のためだけに使われるという保証はないというところにある。NSAは過去、エシュロンのシステムを通じて入手した情報を他国の先端産業技術を盗んだり、交渉に利用したという疑惑を受けている。情報機関が安保だけでなく自国の経済的利益のために情報収集をすることまでは我慢しよう。しかし実際は、このような情報が国益でなく個人と政権の利益のために使われたケースが多い。

プライバシーの秘密と自由は明らかに重要な価値だが、一人で生きていけない世の中で、それだけを絶対的基準とすることはできない。スノーデン氏が見逃した点は、現代人が世の中を生きながら感じる不安と恐怖がプライバシーの侵害を覆うほど大きくなっているということだ。世間知らずなのか、正義感に捉われた熱血青年なのか意見は錯綜するが、監視を受けない権力機関は常に誤った道に進む可能性があることを改めて提起したことは明らかに意味ある行動だ。「見張り役は誰が見張るのか(Quis custodiet ipsos custodes)」というラテン語の命題は、NSAだけでなく選挙介入や西海(ソヘ・黄海)北方限界線(NLL)発言録の公開で論議の中心にある韓国の国家情報院にも有効な問いなのだ。