1986年6月のある日の未明、京畿(キョンギ)・富川(ブチョン)警察署の取調室で起きた出来事だった。ムン・ギドン警長が、労働者偽装就職容疑で拘束されたソウル大学生のクォン某氏(女)について、取調べを行っていた。ムン警長は、反政府デモの首謀者を白状しろと脅かしながら、クォン氏の胸を手で3、4度打った。クォン氏が白状しないと、今度は、ズボンやTシャツを脱がせ、ブラジャーまで引き上げた。いわば、「富川署性的拷問事件」だ。クォン警長には懲役5年が言い渡された。第5共和国の末期に起きたこの事件は、政治社会的波紋が大きかった。
◆先月10日、ソウル東部地検のチョン某検事(30)は、430万ウォン分の生活用品を盗んだ容疑で取調べを受けていた主婦のA容疑者(43)と、検事室で性的関係を交わした。A氏は、「私が泣くと、検事がなだめるように私の体に触ってきた。性的関係を強要した」と主張した。しかし、チョン検事は、「A氏が、取調べ中、泣きながら抱かれるように飛び込んできた」と釈明した。当時、取調室の外では、A氏の夫が待っていた。夫と一緒に取調べを受けに行った女性が、検事を誘惑したというのが、チョン検事の主張だ。
◆二つの事件は、捜査の「刀」を握っていた男性と、その前では弱者にならざるを得ない女性との間で、性的行為が行われたという共通点がある。しかし、前者は「性的拷問」、後者は「性的スキャンダル」といわれている。クォン氏の事件は、捜査機関がひどい人権蹂躙と決め付けられたのに対し、A氏は、検事と汚いことをした共犯となってしまった。逆らえない状態でもなかったし、合意の上での性的関係だという前提がなされている。検察は、「善処の見返りとして、性的関係を交わした」とし、二人を、贈収賄の関係だと判断した。裁判所は、チョン検事に対し収賄容疑を適用した検察の拘束令状について、「見返り性が裏付けられなかった」として、2度共に却下させた。
◆性的暴行に限らなくても、チョン検事には適切な処罰条項がある。刑法上、「過酷行為罪」。捜査機関に携わっている者が、被疑者などに過酷な行為をしたときに罰せる条項だ。過酷行為には、性的羞恥心を与えたり、レイプをする行為も含まれている。取り調べの途中、性的関係があっただけに、法律適用が可能なはずなのに、検察が人権侵害機関として映ることを恐れているためか、収賄容疑にこだわっている。検察の人権不感症は、検事らが捜査のコンピューター網のA氏の顔写真を編集して回覧させる過程で、自らむき出してしまった。最高検察庁監察本部が、チョン検事に対し、収賄容疑ではなく職権乱用や過酷行為容疑で、17日在宅起訴することを決めた。遅まきながら、事件の実態に近づいている。
シン・グァンヨン社会部記者 neo@donga.com






