
本当のことが聞きたいのか。6月4日のポーランドとのワールドカップ初戦の前夜、私も興奮していたし緊張した。韓国国民の期待があまりにも高すぎるのではないか、とも思った。こんな気持ちは初めてだった。私は、いつもすでに完成された強いチームだけを指導してきたからだろう。ある韓国人の友人が「最善をつくしたから、天が助けてくれるさ」と言っていた。彼の話どおりだと思った。
私は恐れてはいなかった。結果については豪語できないが、韓国チームは活力があふれていたからだった。
翌日、ポーランドを迎えた。大変な対戦だった。韓国選手たちは、技術的に、精神的に素晴らしいプレーをした。私と同じように、韓国選手たちは、精神的に大きな負担を抱えて試合に挑んだ。ホームでの試合だけに、史上初のワールドカップ初勝利を挙げなければならないというプレッシャーは大きかった。国民の期待が大きかったのと比例して、選手たちの緊張感は言葉で表現し切れないほどだった。
韓国チームは、結局、ポーランドとの試合で勝った。選手たちは大きな成就感を得たし、私も喜びの余り、自分ひとりでひっそりと悲鳴を上げた。夜遅く、ソウルにいる友人に電話をかけた。彼は、「いまも人々は街に残っている」と、興奮した声で韓国人たちの喜びを伝えてくれた。私は、はじめてこの日の勝利が韓国チームと韓国人たちにどういう意味を持つのかを実感することができた。
しかし、初勝利だったが、最初のボタンに過ぎなかった。私にとっては、それ以上でも以下でもなかった。なぜならば、私には2回戦(決勝トーナメント)に進出しなければならないという欲があったからだ。ポーランド戦の勝利は、終わりではなかった。始まりに過ぎなかった。私は、試合が終わったあと、選手たちに言ってやった。「こら、みんな!今日は素晴らしい試合をした。しかし、まだ終わっていないぞ。いま始まったばかりだ。まだ先は遠いぞ」
二回目の米国との試合は、そんなにがっかりするほどのものではなかった。この試合も、選手たちはやはり大変緊張した状態でグラウンドに出た。米国は、非常に素晴らしいチームなのに、多少、過小評価されている感じがした。ポルトガルまでも、米国戦で、苦しい試合を繰り広げては、結局敗れたではないか。
韓国チームは、何回かのチャンスを生かせない不運が続いた。しかし、韓国チームはもちろん、韓国国民はあきらめなかった。再三言うけど、韓国選手と韓国国民のこういうところが、私は一番好きだ。韓国選手たちは、困難な状況下でも絶対に引くことを知らない。常に危機を克服しては再び立ち上がった。
米国チームとの試合が終わったあと、選手たちは心理的にい縮していた。私は、これを良い兆候だと解釈した。選手たち自身、米国と引き分けたことに満足できなかったことを意味するからだ。つまり、選手たちが、自分たちの能力がどのくらいなのかを知り、何が間違っているのかを知っているということだ。もちろん、この日の試合で、わが選手たちが、消極的なプレーをしていたなら、私も満足しなかっただろう。しかし、選手たちは完璧なチャンスを作り出すために、積極的に努力したし、私はこの点を高く評価した。
米国戦のあと、韓国が属したD組は新しい「死の組」に浮上した。先にポルトガルが米国に敗れてため状況が複雑になってきた。ポルトガルは、米国を過小評価したし、名声に及ばない、つまらないプレーを見せた。ポルトガルが米国に敗れたため、韓国は少し難しい状況下に置かれるようになった。当初の予想は、我々がポーランドに勝ち、ポルトガルが米国を下せば、韓国とポルトガルが容易に2回戦に進出できるものとみていたからだ。
みんなが承知の通り、ポルトガルはたやすい相手ではなかった。たとえ米国との初戦で負けてはいたものの、ポルトガルは世界的な強豪だった。韓国選手たちは、ポルトガルとの対戦を控えて、大変緊張していた。しかし、韓国選手たちは、緊張のなかもで自分たちのプレーと戦術を見せてくれた。彼らに大きな拍手を送りたい。
私は、ポルトガルとの試合の途中、ポーランドが米国をリードしていることを知った。選手たちは、前半中、そのことを知らなかった。前半が終わり、ハーフタイムに入ったとき、一部の選手たちがポーランド—米国戦の状況を知ったようだ。
ポーランドが米国を倒せば、我々はポルトガルに負けても16強に進出できる状況だった。しかし、私は妥協を好まない。それはスポーツではない。選手たちは、どんな状況でも最善を尽くして走らなければならない。韓国選手たちがそうだった。ポルトガルは、韓国と引き分けさえすれば16強に進出できたため、韓国と適当にやって引き分けようと考えていただろう。しかし、韓国選手たちは、最善を尽くして自分たちのプレーを繰り広げ、ポルトガルに堂々と勝った。優勝候補にあげられたポルトガルに勝つことによって、韓国は初めて世界の注目を集めるようになった。
この日、朴智星(パク・チソン)がゴールを決めたあと、私に飛び込んだのが話題になったことを知っている。私は、普段、選手たちに個別に会わないことにしている。それは、私のチーム管理のノーハウだ。選手に別々に会うと、私が誰々だけを偏愛しているという話が出ることになり、チームワークを損ねる。しかし、この日だけは朴智星をぎゅーっと抱き締めてあげるほかなかった。彼が入れたゴールは、欧州のプロリーグでもなかなか目にすることが珍しい、世界トップクラスのゴールだったからだ。
韓国が16強進出に成功したとき、私は信じられないという気持ちになっていた。韓国チームの成果は、驚くべきものだった。韓国の16強進出は、W杯初の出来事だった。やがて夢はかなえられたのだ。いかにも胸がいっぱいになることではないか。
私は、ビックマッチを終えたあとは、一人でいることを好む。ワインを一杯やりながら、その夜を祝った。しかし私は依然として腹が空いていた。相手チームが強いほど、必ず勝ちたいとする勝負欲が湧き出る。たまたま、次の相手はイタリアだった。
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