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線路上に出没する人影の正体

Posted July. 22, 2023 08:21,   

Updated July. 22, 2023 08:21

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1994年の晩秋、30代の運転士・沢木秀男は、列車の運転中にゆらゆらと動く影を見た。街灯の光に映った影は人のように見えた。慌てた沢木は右手でブレーキを回し、列車を急停止させた。線路を確認したが、事故を起こした跡はなかった。駅員も「接触の痕跡はない。誰もいない」と話した。影は風に飛ばされたように消えてしまった。影は人だったのか。一体何が起こったのか。

日本の「社会派」推理小説作家として知られる高野和明の新作長編小説だ。高野が長編小説を発表するのは、大量虐殺を批判的に扱った長編小説『ジェノサイド』(2011年)以来11年ぶり。今回の小説は、1962年に常磐線三河島駅構内で発生した列車脱線多重衝突事故で、死亡者160人のうち1人の身元が分からなかったことから発想を得た。

小説は、雑誌記者の松田法夫が心霊特集記事を取材するところから始まる。松田は、線路で一人の女性がぼんやり写っている写真を受け取る。真偽を確かめるために目撃者と警察に会った松田は、女性の正体が過去に列車事故で死亡した人物であることを突き止める。興味をそそる記事を探していた松田は、少しずつ「なぜ女性の魂がこの世を離れられないのか」疑問に思うようになる。松田が女性の「幽霊」に遭遇した後、2年前にこの世を去った自分の妻の魂に会えるのではないかという希望を抱き、絶望する心理を切なく描いた。

同書は今年、日本の大衆文学賞である直木賞候補になったほど日本で話題を集めた。無駄がなく、事件中心にスピーディーに進むため、引き込まれる。充実した資料調査とインタビューで、死角で起こる事故を心配しながら毎日運行する鉄道運転士の日常をリアルに描いた。バブル崩壊後、心霊のように恐怖心を刺激する話に振り回された日本の社会像を反映するために1990年代を背景にしているが、最近の韓国の現実ともそれほどかけ離れていない。


イ・ホジェ記者 hoho@donga.com