19日、国会の企画財政部の国政監査で、孫鶴圭(ソン・ハクキュ)民主党代表が、朴宰完(パク・ジェワン)企画財政部長官に、「イースターリンのパラドックスを聞いたことがあるか」と尋ねた。朴長官が「初めて聞く」と言うと、孫代表が教授出身らしく、「一定水準の経済成長を超えれば、国民の幸福と生活の質は停滞するのだ」と講義のように説明した。そして、「成長によって、雇用、分配、福祉をすべて解決するという考えは変えなければならない」と注文した。大学で経済学を専攻し、平素、華やかな専門用語を駆使する朴長官が本当に知らなかったのだろうか。「それを知っていながら、なぜ」と言われるかと知らないふりをしたのだろうか。
◆74年、米国の経済学者リチャード・イースターリンは、所得がある水準に上昇し、国民の基本的な欲求が満たされれば、所得の増加が幸福に大きな影響を及ぼさないという理論を発表した。「イースターリンのバラドックス」と呼ばれる。一国家内では、高所得層が低所得層より幸せだと感じるが、国家を比較すれば、国民の幸福指数が1人当たりの所得に比例しないということだ。イースターリンは、バングラデシュのような貧しい国の国民の幸福指数が、米国やフランスより高くあらわれた研究結果を根拠に提示した。
◆しかし、08年、米ペンシルバニア大学ウォートン・スクールのベッツィ・スティーブンソン教授チームは、132ヵ国の50年間にわたる膨大な資料を分析した結果、福祉インフラが整っている豊かな国で暮らす人々が、貧しい国の国民より幸福水準が高かったとして、イースターリンの理論に反論した。すると、イースターリンは、調査の範囲をさらに広げ、昨年発表した新しい論文で、韓国を例に挙げ、自身の論理を繰り返し主張した。調査期間に韓国の1人当たりの所得は2倍も増えたが、韓国人の幸福指数は高くなっていないということだ。
◆イースターリンのパラドックスを支持する学者は、1人当たりの所得が約2万ドルで幸福指数は停滞しはじめると考えている。韓国はまさに境界点にある。孫代表はこのような脈絡で、成長一辺倒の政策を警戒しているようだ。しかし、名目所得がいくらになろうが、上昇する物価と私教育費で可処分所得が減少する韓国国民には、まだ大きなパンが必要なのではないだろうか。しかも、野党代表には、韓米FTA批准、大法院長任命同意のような懸案を速かに処理し、国民の「政治的幸福指数」を高める責任がある。
李亨三(イ・ヒョンサム)論説委員hans@donga.com






