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無知と勘違い

Posted May. 22, 2024 09:11,   

Updated May. 22, 2024 09:11

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「悪いことは絶対しません、ただ見るだけです」。映画「彼女が死んだ」で公認仲介士のク・ジョンテ(ビョン・ヨハン)は、顧客が預けた鍵でその家に入って、その内密な人生を盗み見る趣味についてそのように話す。だが、いくら鍵を任され、家を紹介する仕事をしていて家主がいない時に他人の家のドアを開けて入ることもあるが、その仕事の目的から外れた個人的な趣味(?)は「悪いこと」だ。家宅侵入に当たる犯罪行為だからだ。しかし、ク・ジョンテはこれが悪いことだとは思わない。家主を傷つけるわけでもなく、ただ目立たない小さな物一つを持ってきて収集する「趣味」を持っただけだと勘違いする。

それで自分がしたことが犯罪行為だということを認識できないこの人物は、ある日、門を開けて入ったところに、ソーシャルネットワークサービス(SNS)インフルエンサーのハン・ソラ(シン・ヘソン)が血を流したまま死んでいる姿を発見後に経験する一連の事件に悔しさを訴える。まるで自分が被害者であるかのように話し、行動する。これは偽りの覗き見の人生を生きていく「インフルエンサー」のハン・ソラも同じだ。彼女もやはり口癖の言葉は、「私が一番可哀想だ」だ。彼女は自分のすることがどんな害悪を及ぼすかに、あまり関心がない。自分を被害者と勘違いしながら、言い訳を並べ立てる。

自分が犯した悪いことに無知で、それで自ら被害者と勘違いする彼らの人生は、現在の韓国社会の不条理な断面を示している。過ちを自覚してこそ変化が生じるが、それ自体に無知なので、自分も被害者という錯覚の中で社会は変化の機会を失う。服役を終えて出てきても、自分の悪いことを自覚できないク・ジョンテに、「あなたは、被害者ではありません」と一喝する刑事の言葉は、それで私たち自分を振り返らせる面がある。