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「南朝鮮」が消えた

Posted January. 25, 2024 08:39,   

Updated January. 25, 2024 08:39

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最近、北朝鮮の対外メディアの報道で「南朝鮮」は見当たらない。その代わりに「大韓民国」が登場した。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が、昨年末の朝鮮労働党の中央委員会総会で、「北南関係はもはや同族関係ではなく、敵対的な国家関係、戦争中の交戦国関係」と規定し、「対南路線の根本的な方向転換」を明らかにした直後からだ。この時までは正恩氏は「南朝鮮」を主に使い、「大韓民国」を言及したのは1、2回だけだった。しかし、新年に入ると、すべてのメディアから「南朝鮮」が消えた。

その始まりは6ヵ月前だった。金与正(キム・ヨジョン)党副部長が昨年7月、米軍偵察機の北朝鮮EEZ上空飛行を非難する談話で、二重山括弧を付けて≪大韓民国≫と呼んでからだ。  当時、「大韓民国」は金与正氏名義の談話にのみ登場し、便宜上、「南朝鮮」を混ぜて使うこともあった。その後、徐々にエンジンがかかるように「大韓民国」が「南朝鮮」に取って代わり始めた。

しかし、それは言葉一つを変える問題ではなかった。タブー語だった「大韓民国」を使うことは、抵抗感を避けることができない。さらに、住民が受け止める感情的な混乱はもっと大きな問題だった。そのため、軽蔑と嘲笑の意味を込めるために、「大韓民国」の後ろにはいつも「輩(やから)」「もの」「奴ら」を付け、「外国勢力の特等走狗」といった修飾も必要だった。昨年10月のアジア競技大会の南北サッカー戦の中継では、どうしても「大韓民国」を使うことができなかったのか、「朝鮮対傀儡」と表記することもあった。

一度始めたら適当に終わらせることもできない。正恩氏は、年初の最高人民会議の演説を通じて、憲法から「自主・平和統一・民族大団結」の表現を削除し、歴史から統一・和解・同族概念も完全に削除するよう指示した。やがて労働党規約にある「南朝鮮」「平和統一」も削除するだろう。祖父と父親が作った南北関係の枠組みを完全に否定し、法と規範、住民意識まで壊すイデオロギーの上部構造の全面的な改編に入ったのだ。

それは与正氏の首領への絶え間ない承認闘争、そして与正氏が率いる宣伝扇動チームの対内思想闘争の末に出た結果である可能性が高い。2019年、ハノイ米朝会談の決裂の屈辱を経験した後、南北関係を破綻に導き、様々な暴言を吐いてきた与正氏だ。今や政権のイデオロギーの役割まで自任し、兄を説得して追認まで取り付けたのだ。

ロシアと危険な取引を成し遂げた後、対南緊張をさらに高める必要があるという正恩氏の計算に合致したのかもしれない。40年の冷戦、30年の脱冷戦を経て挑発と挫折、挑戦と試練の年月を経た北朝鮮としては、激化する新冷戦の流れに素早く乗って好機をつかんだと考えるだろう。年末の米大統領選挙でトランプ前大統領の復帰を待ちながら好戦性を誇示し、存在感をあらわそうという思惑も働いたのだろう。

しかし、このすべての試みは結局、自縄自縛になるしかない。愚かなイデオロギーは、目先の都合のために現実を無視した論理的飛躍の沼に陥る。その結果が体制競争の失敗を認める守勢的路線への転換だった。結局、独裁体制の維持と金氏世襲体制の保存が唯一の目標である北朝鮮の苦しい現実を露呈したのだ。

北朝鮮の行動は、旧東ドイツの「2民族2国家」路線と同じだ。1970年代、ホーネッカー政権は、「ドイツ単一民族論」を否定し、憲法改正を通じて「ドイツ民族」を消し、分断克服と統一努力条項まで削除した。統一を願う歌詞が気にいらないとして、国歌の斉唱すらできないようにした。そうして独自政権であることを誇示したが、しばらくして西ドイツに吸収されてしまった。金氏兄妹の無知な大胆さがもたらす波及が懸念される。