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救急救命室でも漂流は続く、病床探しで再び152キロ「ヒーローコンテンツ/漂流①」

救急救命室でも漂流は続く、病床探しで再び152キロ「ヒーローコンテンツ/漂流①」

Posted March. 29, 2023 08:38,   

Updated March. 29, 2023 08:38

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「この患者、白血球の数値が3万なの?」

麗水全南(ヨス・チョンナム)病院のカン・ギョングク救急医学課長は、信じられないように検査結果紙をもう一度覗いてみた。正常より3倍以上高い数値だ。原因は分からないが、体に深刻な異常があるというシグナルだ。直ちに血液透析が可能な病院に運ばなければならない。カン課長が電話機を持った。

救急車に乗ってきて、救急救命室の敷居を越えたからといって、患者の「漂流」が終わるわけではない。ある患者は救急救命室の病床に横たわっても、仕方なく医師を待たなければならない。1月15日、全羅南道麗水市(チョルラナムド・ヨスシ)の麗水全南病院の救急救命室にいたチャン・ブギさん(74)がそうだった。

●混雑した救急救命室で「漂流」開始

40分前の午後10時25分、麗水全南病院の救急救命室の電話のベルが鳴った。119の救急隊が患者を連れて行ってもいいか尋ねる通常の電話だった。「来てください」

3分後に到着した救急車には、ブギさんが横たわっていた。彼の妻は、「糖尿病を患っているが、元々健康だった人が、元気がなくて来た」と話した。

救急救命室はすでにごった返していた。血便で救急救命室を訪れた50代の男性は状態が大変深刻なように見え、酒に酔って喧嘩をして運ばれてきた20代の男女は大声で叫んだ。その隣の7歳の男の子は、高熱で点滴を受けていた。いつもと変わらない夜間救急救命室だった。

その間、ブギさんの検査結果が出た。特に危険そうに見えなかった彼の白血球の数値は、今に心臓が止まってもおかしくないほどだった。驚いたカン課長が「尿道カテーテルの準備をしてください」と大声を上げ、ガウンを脱ぎ捨てたのはその時だった。急いで薬を投入したが、どれだけ効果があるか分からない。結局、緊急血液透析機械に連結しなければならないだろう。しかし、集中治療室は満室だ。麗水全南病院の集中治療室の病床11床を埋めていた患者のうち、危篤でない人はいなかった。

午後11時30分。応急処置を受けたブギ氏が追加検査を受けに行っている間、カン課長は席に戻ってきた。「原因は曖昧なんだけど…」。頭痛でおのずとしかめっ面になった。水を一口飲んでは、1300ページ以上の厚い救急医学教科書を開いた。グーグルで関連論文も検索してみる。

ブギ氏が普段飲んでいる薬から、もう一度確認しなければならなかった。家に残った家族が撮って送った薬袋の写真は、文字が小さくて分かりにくかった。患者の診療記録を見れば良いが、他の病院で受けた患者の診療記録にはアクセスできない。政府は、「私の健康記録」のアプリをインストールしておけば、いつでも記録を見ることができると広報したが、カン課長はそのアプリをインストールした老人患者を一度も見たことがない。

「大学病院に行かなければならないかもしれません」。カン課長は、ブギ氏の妻が驚かないように落ち着いた声で状況を伝えた。「良くないんです。お子さんたちにも連絡してください」。青白くなった妻は、震えながら電話を持った。

●1人で救急救命室を守る医師、診療の代わりに病院手配

日を越した16日0時24分に受けた追加検査の結果でも、ブギ氏の状態は危険だった。薬が効かなかった。「患者さんを早く他の病院に行かせよう。血がめちゃくちゃだよ」

それからは見慣れたシーンが繰り広げられた。蚕室(チャムシル)の119救急隊がジンス(仮名)氏を移送する時のように、カン課長は電話をかけ始めた。集中治療室に空きが多い近くの病院から…。患者の受け入れが断られると、次の病院に電話をかける。中央救急医療センターのウェブサイトで近隣病院の病床の現状を見ることができるが、意味のない数字であることを、医師であるカン課長は誰よりもよく知っている。空き病床があるとしても、治療する医師がいなければただの数字に過ぎない。

「74歳の男性の方の救急血液透析が可能かどうかお問い合わせします。あ…はい」

カン課長は、何の罪もない電話機の終了ボタンを神経質に押した。「朝鮮(チョソン)大学もだめだし…」。腹が立った。念のため、自動的に心臓をマッサージする機械と人工呼吸器を取り出しておいた。麗水全南病院から、血液透析治療が可能な近くの病院は、北側に1時間半がかかる光州(クァンジュ)にある。ところが、先ほど、光州全南大学病院と朝鮮大学病院がブギ氏を受け取れないと言った。

カン課長は試みを続け、失敗し続けた。全羅南道順天市(スンチョンシ)と和順郡(ファスングン)、木浦市(モクポシ)の大型病院3ヵ所も、「ブギ氏を受け入れるのは難しい」と答えた。慶尚南道晋州市(キョンサンナムド・チンジュシ)にある慶尚(キョンサン)大学病院にまで電話をかけたが、結果は同じだった。「先のあそこが最後だった」とカン課長はつぶやいた。

それでも、1時間以上危篤な患者が来ないのが幸いだった。この救急救命室で、医師はカン課長たった1人だけだ。患者をもっと受け入れる余力がない。全国の救急救命室516ヵ所のうち、規模の大きい圏域応急医療センター38ヵ所を除いた残りは、たいていは救急医師1人が常駐する。

● 空き病床一つ探して152キロ

0時56分。カン課長は、中央救急医療センター傘下の状況室に電話をかけた。この状況室は、重篤な患者が救急救命室で適切な治療を受けられない場合、治療が可能な病院を手配してくれる組織だ。カン課長が早くからここに電話しなかったのは、状況室が全国すべての救急患者の責任を負っており、常に「過負荷」がかかっているからだ。状況室の常駐職員4〜6人が、病院ごとにいちいち電話をかけて病床を手配する。カン課長が電話をしていた過程が繰り返される。それで、最後の瞬間だけ助けを要請する。

状況室との通話を終えたカン課長は、モニターに地図を浮かべた。全国の主要救急救命室と直通電話番号が表示された地図だった。「どこまで行くことになるかな…。あまり遠くはいけないんだけど」

午前1時51分、全羅北道全州市(チョンラブクド・チョンジュシ)の全北(チョンブク)大学病院から、「患者を送れ」と連絡が来た。状況室から探してくれた病院だった。車で2時間の距離だったが、選択の余地はなかった。カン課長が救急救命室の外に飛び出して、ブギ氏の妻を呼んだ。道の境界を越えて全北大学病院に行くという話に、妻が問い返した。「全州ですか?」。カン課長が答えた。「はい、一番近いところが全州です」

看護師は、ブギさんが乗る私設救急車を呼んだ。ブギ氏を乗せた救急車は、152キロを走って午前3時57分に全北大学病院の救急救命室に到着した。カン課長が電話をかけ始めてから3時間30分後だった。ブギ氏のように、他の病院を経て救急救命室に運ばれた患者は、2021年は48万3781人だった。その年の救急救命室の患者10人に1人の割合だ。