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分からないこと

Posted July. 10, 2021 07:44,   

Updated July. 10, 2021 07:44

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1990年代初期に詩人高静熙(コ・ジョンヒ)氏の遺稿詩集が出た。題名は『すべての消えゆくものは後に余白を残す』だ。非常に象徴的な題名だ。また、詩人が残した作品の多くがそうであるように強烈でもある。象徴的で強烈なことは脳裏に長く残る。そのうえ、この題名は詩の核心を貫いている。

 

大工にとって木が材料であるように、消えることとその跡は詩人の作業台に置かれた2つの材料だ。詩人は消えゆくものを聞き、見て、探す人だ。それゆえ鋭敏な感覚と精密な観察が必要だ。彼らは兆候を通じて存在と世の中の意味を探して記録する。時にその記録は悲しく、時に美しい。詩人イム・ジウン氏の詩を読んでわかった。消えゆくものについての記録がこのように寂しくても近くに理解されることを。ある日、火にかけたスープがあふれて跡が残った。それは薄く、すぐに消されるだろう。そこで詩人は母親を思い出す。薄れていくものから、薄れていく母親の顔を捜し出す。名前を付ければ、意味がもう少し長く残るだろう。消えてしまうことが残念で、詩人は名前を付ける。

この詩には、消えゆくものを捉える過程がひそやかに描かれている。詩人がまるで暗い道を手探りで進むかのように心がそちらに傾く。おそらく詩人も私たちもと同じ気持ちだろう。消えゆくものの跡をとらえることができなくても、何も知らないまま失いたくはない。