日本最高の安保専門家で、民間人としては初の防衛相を歴任した森本敏拓殖大学総長は最近東亜日報とのインタビューで韓半島内のサード配置をこのように評価した。
韓国と米国のサード配置決定には中国が反発し、北朝鮮への制裁を緩和したり、韓国に対する報復の動きさえ見えている。日本は北朝鮮の核とミサイル脅威に備えて日米同盟を強化し、世界の中での軍事的役割を拡大する構えだ。米中対立を中心に周辺国が自国の利益拡大に走っている東北アジア情勢について伺った。
- 韓国のサード配置に対して 中国の反発が激しいですが。
“中国が反発する対象はサードよりもむしろ、Xバンドレーダーだ。中国南部半分の戦略システムが探知されるのを警戒している。何故反対しているのかをきちんと説明しないまま‘自国が見えるから’と言っているけれど、そこには仮想敵国としての米国を攻撃する戦略システムを持っているからだ。
韓国と米国がサードは北朝鮮に対する防衛手段で中国を念頭に置いたものではないと何度説明しても黙殺している。これは主権干渉だと思う。いかなる主権国も自衛の手段を持つべきだ。”
-議論の一つはサードの実効性のある防衛効果です。日本は導入していませんが。
“どのシステムも100%防衛は不可能である。ただ、サードは日本の地対空PAC-3よりは、はるかに有効な防衛手段であることは確かだ。より広域で高高度をカバーする。サード配置国はこれからも増えるはずだ。日本も導入を検討中だ。ただ日本の場合すでにイージス艦とPAC-3で重層防衛網を構築している。これまでのシステムにサードを追加すると全体的にどんなシステムになるのか、慎重に検討している。
-これから米国は同盟国の負担増を要求しそうです。
“駐留米軍に対する経費分担だけで同盟を見てはいけないということを、米国の専門家らはよく知っている。ただ、米国の不満を正確に言うと、‘同盟国が対価を出さない’ことだ。地域安定のため、米国を支援する努力を多様な分野でやってほしい。”
―日本はどのような努力をしていますか。
“2017年度米国防省予算案に‘第3 オフセット(相殺)戦略’というのがある。中国・ロシア等に対し技術優位で米国のリーダーシップを確保するというものだ。これに足並みをそろえて米国と日本の間にいろんな技術協力が行われている。特にミサイル防衛分野でPAC-3を改良した‘SM-3ブロック2A’と言う高高度から邀撃可能なミサイル防衛技術を共同開発している。2018年にはテストに入る予定だ。”
-サードと似たものですか?
“全然違う。サードは終末段階、このシステムは中間段階で邀撃するシステムだ。北朝鮮から発射されハワイやグアム、米本土に飛んでいくミサイルを途中で邀撃できる。現在のシステムは射程1300km ‘ノドン’級に備えているが、これより高い高度、早い速度のミサイルを防ぐ。それ以外に、日本はシステムではなく炭素繊維や部品の技術を提供する。”
-最近、日本はアジアで一番中国を牽制する姿勢が見えます。いざとなるとこの地域で米国の空白を埋めるという覚悟のようにも見えますが。
“そうではないが、日本の国内世論は中国に好意的ではない。中国は確かに大国だが、共産党独裁体制の下で進められる中国経済には限界が確実に見える。人のものを真似して利用するだけ。それに国際ルールに従わない。人の特許品を真似るのは国際法違反だ。日本に来る中国人観光客が増えたが、彼らは周りのことは気にせずにあっちこっちにゴミを捨て、それを日本人職員が片付ける様子を見ると日本人はいらだつ。国家間でも同じだ。軍事力を大きくし、周辺国を脅かす態度に日本人はいやな感情を持つ。安倍政権は中国問題に断固な姿勢をとるが、これは国民が思っていることを代弁しているのである。その点で安倍政権の人気は北朝鮮と中国のおかげかもしれない。”
-南シナ海に関連して、中国がハーグ常設仲裁裁判所(PCA) 決定を無視する態勢です。
“共産党一党独裁に対する中国内部の不満を収束する習近平体制としては国際法との妥協は不可能である。ただし‘国際法違反国’との指摘も彼らとしては愉快ではない。結局外交的主張は維持するけど行動ではペースを緩め、冷戦と似たような状態が続くだろう。ここで一番の問題は米国の存在感不足だ。大統領選挙が終わり、新しい政権の下で中国に対応する明確な政策が出てくるまで当分不安定な停滞状態が続くだろう。”
- 世界は強国ほど‘自国利己主義'に走る様子です。世界秩序は維持されるのでしょうか。
“混乱の第一の原因は米国のリーダーシップの不在だ。オバマ大統領は2013年9月シリア問題に対し、‘これ以上、米国は世界の警察ではない’と演説した。2012年 1月発表した‘新国防戦略’は世界の米軍を撤退させる計画を盛り込んでいる。これに対応しようとしているのがロシアと中国だ。2014年3月ロシアがクリミアを合併し、ウクライナに介入し、さらに、シリアに介入した。中国も2014年から南シナ海の軍事拠点化を進めた。このような国際秩序への挑戦にUN安保理は何もできなかった。イスラム国家(IS)のテロも2014年から世界に拡散した。
-‘核のない世界’を唄うオバマ政権が世界平和を危うくするという逆説ですか。
“過去には‘無法者’みたいな国が現れると価値観を共有する国らが有志連合軍を作り、法秩序を回復するよう動いた。現在は国際法に基づく秩序維持を法執行する方法がない。北朝鮮の弾道ミサイル発射に対するUN安保理非難声明も出せなかった。オバマ政権は米国が50年以上国際問題に軍事的関与をしてきたけど、財政は厳しくなり、陸上兵士らは海外戦闘で傷つき、各国で反米感情だけ増えたと判断している。”
-それはドナルド・トランプ、共和党の候補者の主張に類似している。
“世界最強国の米国は、むやみに‘世界の警察官を辞める’と発言してはいけない。黙っていてもその存在感だけで抑止力として作用するのに、はっきりとそのような宣言をしたので、ロシアや中国が安心して本性を現してきた。それで今は、どの国も自分の国の事だけを考える‘内向性’が強化された。自国の利益が最優先、誰も国際社会の為に犠牲になる考えはない。”
‐相当数の米国人は孤立主義に賛同のようですが。
“国内世論はそうだ。しかし、米国は国内の反対を押し切って、他国に軍事的介入をしてきた。特に、米国が主導してきた戦争の大多数は民主党の行政府が始めたという面もある。戦争が好きで始めたのではなく、それが米国のリーダーシップを回復する一番の方法だし、米国の国益、経済的利益につながると見ているからだ。”
‐クリントン候補が政権を握ると、 米国のリーダーシップが回復するでしょうか。
“オバマ政権の時よりは良くなるだろう。オバマ政権の国務担当のスーザン・ライス補佐官は‘米国 の犠牲は一切ダメだ’という教祖的な考えを持っている。クリントンはオバマ政権の国務長官時代からそのようなナイーブな政策に批判的だった。一番望ましいのは、同盟国がもう少し米国の役割を保完しながら、米国がより大きなリーダーシップを発揮できるようにして、地域の安定を図る努力をすることだ。”
‐今の日本がやろうとしていることですか。
“日本は憲法問題が残っている。安保法制は通過したが、米軍に対する後方支援が可能になったくらいで、軍事的役割を強化するまでは至っていない。米国の次の政権と日米同盟をどのような方向へ持って行くのか、日本はどのような役割を追加できるのか議論が必要だ。”
安保法制改定については、安倍政権が米国の国防戦略を補完し、日米協力を強化するためにしたことだ。しかし、安倍総理の改憲ロードマップは一寸先が見えない。8日に、天皇が生前退位の意向を表明して、より複雑になっている。
-安倍総理は“任期中改憲”言っていますが。
“‘憲法 9条’ではなく、 ‘憲法’を変えたいということだ。歴代総理ができなかった‘改憲’を、9条ではなく、緊急事態条項であっても手を入れた総理として歴史に残りたい。だからどの部分に手をつければ国会での発議と国民過半の賛成を得られるのか、憲法審査会で研究して案を出してほしいと言っている。彼は靖國神社を参拝した2013年 12月以前までは原理主義者に近かったけど、その後は現実主義者に変わった。この点、留意しなければならない。”
<森本敏プロフィール>
1941年 東京生まれ
1965年 防衛大学校電気工学科卒業、航空自衛隊自衛官
1979年 外務省在米日本国大使館一等書記官、情報調査
局安全保障政策室長など
1992年 野村総合研究所主席研究員など
2000年 拓殖大学国際学部教授
2009年 日本初代防衛大臣補佐官
2012年 第11代防衛大臣(民間人初)
2016年 拓殖大学総長就任
도쿄=서영아특파원 sya@donga.com