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韓国社会における1万5千ウォンの罪の代償

韓国社会における1万5千ウォンの罪の代償

Posted April. 09, 2024 08:38,   

Updated April. 09, 2024 08:38

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最前線の警察署には「軽微犯罪審査委員会」というものがある。同委員会の設置根拠を盛り込んだ運営規則の最初の条項である設立目的には、その方向性が明確に設定されている。「軽微な刑事事件の前科者量産を防止するため」ということだ。韓国の刑事司法システムの最前線である警察から、韓国社会にも寛容が生きていることを示そうという趣旨が読み取れる。

2015年に発足した同委員会は、設立目的に合った働きを少なからずしてきた。20年の大田(テジョン)と昨年の忠清北道(チュンチョンプクト)では、それぞれ数千ウォン相当の物品を盗んだ80代の高齢者がいずれも厳重注意に終わった。おそらく彼らだけでなく周囲の人々も警察が処罰のためだけに存在する組織ではないことを知ることになっただろう。

このような寛容はイ・ムジェさん(84・東亜日報3月21日付A12面参照)には当てはまらなかった。イさんは古紙回収で生計を立てていた。イさんは昨年4月、ある飲食店の前に置かれていた紙箱の中に入っていた指定ごみ袋10枚(計1万5千ウォン)を取った容疑(窃盗)で立件された。前例の高齢者らとは異なり、イさんの事件は同委員会の案件には上がらなかった。担当警察署関係者は、「イさんと被害者の双方が(示談に)積極的ではなかったため、示談に至らなかった」とし、「示談は委員会案件の重要な基準」と話した。

裁判所は7ヵ月後、イさんに罰金30万ウォン、執行猶予1年を言い渡した。裁判所は「(イさんが)飲食店の前に置かれた箱を回収し、その中の指定ごみ袋も捨てられたものと判断した」とした。ただ、イさんが初犯で高齢であることなどを考慮して執行猶予が宣告された。刑は確定した。

イさんが再び罪を犯さない限り罰金を払う必要がないので、量刑だけを見れば、韓国社会が寛容を施したと見ることもできる。

しかし、数ヵ月に及ぶ刑事司法制度を経る中で、イさんの生活は崩壊した。イさんは最近、持病の脊椎狭窄症まで悪化し、1日の大半を横になって過ごしている。古紙回収の仕事もできなくなった。収入は国の支援金など数十万ウォンがすべてだ。

イさんはまだ、店の外に置かれていた1万5千ウォン相当の物品を取ったことで、警察と検察、裁判所まで続く判断を受けなければならなかったのか疑問を抱いている。疑問は各段階を経るごとに積み重なり、社会に対する怒りで大きくなった。

貧しくても他人に頼らず古紙を拾っていた80代の老人に寛容が早く訪れることはできなかったのだろうか。同委員会が開かれなかったことが残念だ。むろん、示談に至らず、イさんの案件を上程できなかったという警察の説明も理解できる面もある。被害者が「警察が恣意的に法執行をする」と批判をするのは当然のことだ。

ただ、委員会運営規則に当事者間の示談が議案上程の必須条件となっておらず、上程後、多数決投票を経るという点が気になる。同委員会は必ずしも厳重注意などの処分を下すわけではなく、最大7人の委員で構成された委員が投票を行う。委員のうち、警察以外の部外者が半数以上でなければならない。警察が懸念するような批判を避けられるように制度的に設計されているのだ。

今、イさんの怒りを法律で和らげる道を見つけるのは難しい。ただ、「これからは本当に私のようなことがない世の中になってほしい」というイさんの嘆きに、警察は耳を傾けてほしい。