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後援者への忠誠心

Posted February. 29, 2024 08:51,   

Updated February. 29, 2024 08:51

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華やかなドレスとアクセサリーを身につけた女性が、白い犬を抱いて立っている。犬は飼い主を見つめているが、女性は体だけを犬に向けて画面外の観客をちらりと眺めている。犬の首輪からの青いリードが、彼女らを優しくつないでいる。貴族のように華やかに着飾ったこの女は一体誰だろう?

「犬を持つ女性」(1769年・写真)は、18世紀ロココ美術の巨匠ジャン・オノレ・フラゴナールの30代時代の代表作だ。ルイ15世の情婦だったポンパドゥール夫人をはじめとする貴族たちの後援を受け、画家として勢いに乗っていた時代に描いた。白いレースカラーが過度に高くそびえるピンクのシルクドレスは、当時流行していた服ではない。17世紀、フランス王妃が着ていた宮廷衣装を思い出させる。

実はこの絵は、フラゴナールが37才の時に描いた「幻想人物」の連作に属する。計18点で構成された連作には、本を読む少女から俳優、歌手、画家、将軍、貴婦人など多様な職業と身分の人々が華やかな衣装を着て登場する。幻想の中の人物を描いたとしても、モデルはいたはずだ。20世紀初頭までは、学者らは画家の姉や叔母などの家族をモデルと推定していた。しかし、彼には姉も叔母もいなかったし、娘も生まれる前だった。最近の研究によると、モデルはマリー・エミリー・コネイド・クルソンという貴族女性だ。貴族たちが社交のために集まったサロンの主人で、この絵を依頼した顧客だった。画家は50代の貴婦人を明るく軽快な筆遣いで美しく優雅に表現した。

この絵の最も驚くべき点は、制作期間だ。画家は優れた技巧を誇示するために、1時間以内に完成させた。あまりにも早く描いたので、生前「速度の巨匠」と呼ばれた。素早い筆遣いで描いたが、人物の顔の表現には真心を尽くした。後援者の心をつかむためだったのだろう。関心を受けるためにひたすら飼い主だけを見つめる犬の心情と大きく変わらないはずだ。もしかしたら、この絵は後援者への忠誠心を表わした画家の自画像なのかもしれない。