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ニューディールは価値の転換だった

Posted May. 25, 2020 08:26,   

Updated May. 25, 2020 08:26

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先週、左派経済学者・禹晳熏(ウ・ソクフン)博士が、文在寅(ムン・ジェイン)大統領宛てに公開書簡を送った。政府が、韓国型ニューディールの一環として提示した遠隔医療の推進をやめるべきだという内容だ。遠隔医療が医療民営化につながるといのは、進歩陣営の長年の反対論拠だ。だから禹博士の主張は予想範囲内にあった。個人的に注目したのはこの部分だ。

「あえて手紙を書かなければならないと思ったのは、『医療保険上限制』を叫んでいた2012年の文在寅と『韓国型ニューディール』に『非対面診療』を含めたあの文在寅が果たして同じ文在寅か、そんな心の葛藤からだけではありません。より現実的かつ政治的な危機意識からです。今の非対面診療は、ろうそく集会後、初めて迎えることになる政権の危機になりかねません。波紋が大きいような気がします。少しでも私たちが『医療公共性』について悩んでいたあの瞬間を振り返って見れば良さそうです」

過去を共有する人とは、たびたび未来を一緒にするのがさらに困難になることがある。禹博士は、文大統領が出た二度の大統領選挙を一緒にした。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の時もこうだった。当時、イラク派兵と韓米自由貿易協定(FTA)締結は、支持層離脱につながった決定的なきっかけとなった。しかし、韓国経済の隷属化につながると主張していた韓米FTAがなかったら、韓国製造業の雇用維持機能がどれだけさらに持ちこたえることができのか疑問である。米国が後で、韓国に一方的に有利な協定だと主張しながら改正を要求したとき、これまでFTAに激しく反対していた人々は、口を閉じていた。

パンデミックが歴史の流れを変えてきたのは、過去と断絶できるからだろう。統計庁の今年第1四半期の家計動向調査で、下位20%の勤労所得(賃金など)の減少で所得不平等が大きくなったが、その責任はすべてコロナのせいと解釈された。所得主導成長によって虚弱になった低所得層の基礎疾患は議論すらならなかった。小商工人や自営業者の没落も、製造業の体力低下もすべて感染症のせいにされた。

どうせコロナによって免罪符を受けたから、新たに出発しなければならない。その始まりが韓国型ニューディールになるかは不明だが、それさえもきちんとやるためには、過去との決別が必要だろう。大恐慌時の米国のニューディールは、資金をたくさん供給する拡大財政政策ぐらいに知られているが、実際ニューディールは、制度や価値観の大転換を前提にした。当時、米国は、労働者の団結権、団体交渉権を認め、最低賃金や最高労働時間制度を導入した。現代の米国の福祉制度は、そのほとんどがあの時に作られたとしても過言ではない。資本の既得権的反発は、その後、世界大戦の勃発に伴う需要急増によって沈められた。

方向性はどうであれ、韓国型ニューディールも変化を受け入れるだけの社会的枠組みを作らなければ、第一歩を踏み出すことは容易でないだろう。遠隔医療は、一見医療界が最も反対するように見えるが、根本的には医療公共性という進歩的価値が毀損されたと考えている与党圏支持層の反発が最大の障壁である可能性が高い。海外に出て行った企業が戻ってくることができるように、首都圏立地規制を緩和するリショアリング支援策も、表面的には環境部と国土海洋部が反対しているが、結局は、この政府と哲学を共有している国家均衡発展論者たちをどのように説得するかがカギといえる。

大統領府から、文大統領のこの3年間は太宗(テジョン)であり、残りの2年は世宗(セジョン)の姿になったらという話が出た。太宗が朝鮮の基礎を整え、世宗の時代を準備できたのは、4人の義理の兄弟を処刑し、側近である李叔蕃(イ・スクボン)まで除去することにより、功臣集団を瓦解させたおかげである。王と君臣関係ではなく、革命同志だった勢力を解散して、新しい時代を切り開いたのだ。変化と革新は、過去から自由にならなければ不可能なことである。