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記憶のクモの巣

Posted March. 28, 2019 08:12,   

Updated March. 28, 2019 08:12

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人間は忘れる動物だというが、誰にでも永遠に大切にしたい記憶がある。日本人アーティスト、塩田千春さんは、一人ひとりの記憶を引き出し、クモの巣のように複雑に糸に紡ぐ。ベッド、ドレス、靴、鞄など誰かの記憶と思い出がつまった日常的な物は彼女の手を経て巨大な展示品に生まれ変わる。

2015年のヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館に展示された「掌の鍵」は、塩田さんの世界を圧縮した作品だった。展示場の天井を迷路のように覆う糸が床に置かれた古い2隻の船をつなぎ、その間に5万個の鍵がぶらさがっている。この鍵は、塩田さんが世界各地で収集した18万個から選別したものだ。鍵は大切なものを保管する日常の物であり、最も信頼できる人にだけ預けることができる信頼のしるしだ。塩田さんは、血を象徴する赤い糸で結ばれたこの鍵が「真実の感情を伝える媒介体として人間のように互いにつながっている」と話す。結びつき、からまり、縛り、解け、切断される糸の属性は、人間関係を表現する単語とも似ている。

塩田さんは、家族の死に直面した後、何かを記憶し大切にするためにこの作業を始めた。日々人の温もりに接し、記憶を蓄積した鍵を集め、自身の作業と結びつけた。作品制作のためにインターネット広告を出したところ、世界各地から多くの人が鍵を送ってきた。時には鍵にまつわる話が書かれた手紙も同封された。彼女が集めた鍵は単に使い道のない物ではなく、18万人の大切な記憶と話が内包されたオブジェなのだ。

展示場の床に置かれた2隻の船は、記憶の雨をためる両手を象徴する。喪失の悲しみを越えて記憶と共に機会と希望を表現したかったという塩田さんは、この船が個別の記憶を集めて巨大な海に向かって前に進むことを願う。鍵は新しい世界のドアを開ける重要な道具でもあるのだから。