列車の速度を上げるときに使うレバーと様々なボタンが目の前に現れた。窓の外には、63ビルなど見慣れた建物の間から空を飛ぶ飛行機も見えた。持っているジョイスティックを押すと、画面の中のレバーが上がりながら、椅子で列車が動くときに感じられる振動が伝わってきた。列車が左または右に方向を変えると、それによる偏りも感じることができた。窓の外にはソウルの風景が通り過ぎ始めた。列車を停めて頭にかぶっていた機器(ヘッドマウントディスプレイ)を脱ぐと、実感できていた様々なシーンは消え、モニターだけがぽつんと残っていた。最近、ソウル麻浦区(マポグ)ワールドカップ北路にあるヌリクムスクエアのバーチャルリアリティ(VR)シミュレータ開発会社「イノシミュレーション」で、列車運転訓練用シミュレータを経験した。まだ開発段階なので、ゲーム用ジョイスティックを使ったが、完成したら椅子の周りにレバーと操作用ボタンが付けられる。
VRが「実利性」を武器に、再び名誉回復に乗り出している。これまでゲームとメディア市場の勢力図を変えると注目されていたVRだが、期待に及ばないという評価が多かった。しかし、最近、教育訓練や仮想実験など、用途が明確な企業間取引(B2B)市場でVRが効用を認められて、急成長している。
イノシミュレーションは、フォークリフトなどの重機運転訓練、自動車シミュレーター、潜水艦や戦闘機などの国防用など、様々な訓練用VRを開発している。2000年に設立された同社の売上は、2015年は100億ウォン、2016年は180億ウォン、昨年は300億ウォンなど急激に伸びている。今年は600億ウォンが目標である。科学技術情報通信部は、VR・拡張現実(AR)産業の現況を用途別に区分して把握する必要があると見て、韓国仮想拡張現実産業協会と一緒に統計データを収集し始めた。
VRが注目される理由は、目的性がはっきりしているので技術的欠点が大きく浮上しないからである。情報通信産業振興院(NIPA)のチュ・ボンヒョンVR産業振興チーム長は、「ヘッドマウントディスプレイが重くて消費者の抵抗感があり、画面が大きくて動くときに吐き気が感じられる問題もまだ解決されていないが、訓練用VRはそのような問題からは自由な方だ」と説明した。
効率も良い。現在、航空機のコックピットをそのまま具現するシミュレータを設置するためには、大きなスペースを必要であり、四方をディスプレイに囲まなければならないので製作費が相当かかる。大きなシミュレータを動かすためのエネルギーも少なくない。最も大きな民間航空機であるA380のシミュレータは、1台が200億ウォンを超える。
一方、これをVRに置き換えると、製作費も大幅に減る上、狭い空間で複数の人が同時に訓練を受けることができる。また、訓練を受ける人同士が同じ仮想空間の中で活動することができる。
「実利的」VRは、さまざまな方法で進化している。自律走行車の周辺事物認識機能が正常に動作しているかをVRで事前にテストできる。手にはめて特定位置で一定の行動をすると、実際に物事に触れたように手に刺激を与える「バーチャルリアリティ手袋」もさらに発達すれば、レバーやボタンを別に作らずにソフトウェアだけで仮想空間を実現することができる。
イノシミュレーションのチョ・ジュンヒ代表は、「訓練用VRは訓練対象機器についての知識が重要なので、単純なVR技術だけではコピーできない」とし、「中国もVR技術はいいが、実際の機器についての知識においては韓国がリードしているだけに、競争力がある」と語った。
金成圭 sunggyu@donga.com