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疑わしい征服史

Posted May. 26, 2020 08:36,   

Updated May. 26, 2020 08:36

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イブン・ハルドゥーン(1332〜1406)は、14世紀に活躍したイスラムの政治家であり、歴史学者だ。祖先はイエメン人で、自分はチュニジアで生まれた。彼は、北アフリカのイスラム王国とスペインに進出していたムスリム王朝であるグラナダ王国で政治家として活躍した。彼が残した最高の著作は「歴史序説」だ。もともと人類文明史を叙述しようとしたが、あまりにも巨大な作業だったのか完成できなかった。彼はイスラム知識人で、本格的な学者の家で成長したにもかかわらず、14世紀の人物であるという事実が信じられないほど合理的な知性を持っていた。古代社会と宗教的神話への鋭い批判は、17世紀の啓蒙主義の知識人のレベルを超える。

イスラム国(IS)のような硬直したイスラム原理主義者たちが、もしイブン・ハルドゥーンほどの知性をもっていたなら、この世の中はどれほどよくなっただろうか。歴史序説にこんな物語がある。イエメンにトゥヴァ王朝と呼ばれる小さな国があった。紀元前6世紀、ペルシャ帝国の最盛期に、トゥヴァにアサド・アブ・カリブという王があった。彼は3人の息子を同時に遠征に送った。そのうちの二人の息子がイラン地域を略奪し、中国まで進撃した。彼らの部下の一部はチベットに残留した。末の弟はビザンチン地域に進出して、この地域を服属させて戻ってきた。イエメン人は誇らしかったらしいが、イブン・ハルドゥーンは鋭く批判する。当時の戦争での長距離遠征は、いわゆる現地調達という略奪なしには不可能である。さらに、中国まで進軍するためには、ペルシャを含むその中間の多数の国々を服属させなければならない。しかし、トゥヴァがこれらの地域を征服したといういかなる証拠もない。

それでも人々は誇らしい歴史に酔う。過去史だから構わないだろうと言う人もいる。しかし、このような歴史に酔う瞬間、理性は感性に屈し、知性は薬物中毒になったように硬直し、退化する。それなら、人生の数々の事案について正しい判断と意思決定を行うことができるだろうか?一見実生活とは何の関係もないように見えるが、感性的歴史の本当の害悪はこれである。

歴史学者


李恩澤 nabi@donga.com