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母親の「良知」

Posted March. 03, 2021 08:09,   

Updated March. 03, 2021 08:09

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本を通じて学ばなくても人間の心は善に向かって動く。ゆえに陽明学では、経典を読むことよりそのような心、すなわち「良知」を自覚して実践することを重要だと考える。キム・グムスク氏の漫画『待つ』は、傷と苦痛の中で咲く良知の花を感動的に形象化する。

韓国戦争が起こり、韓国に退避する時に別れた北朝鮮にいる夫と息子を懐かしむ女性の話だ。彼女は、娘に母乳を与えている時に、夫と息子を見失った。戦争が起きたのが約70年前なので、待つことに年齢があるなら、彼女にとって待つことは70歳になった。

ただ待っているだけでなく、彼女は北に妻を置いて来た男性と再婚した。男性が良かったからというよりも、彼の4歳の息子のためだった。同じ年頃の自分の息子が母親なく成長することを考えると、子どもの母親になってあげたかった。自分の息子にも良い新しい母親がいることを願う思いで。彼らは再婚し、北に戻ることになれば互いの夫と妻の元に戻ることを約束した。歳月が経ち、2人の間に子どもが4人も生まれたが、心は変わらなかった。しかし、分断した国で彼らが北に戻ることはなかった。

 

彼女は自分が産んだ子どもたちが嫉妬するほど心で産んだ息子を大切にした。不憫に思うことは、息子が歳月が流れて年を取っても同じだ。彼女は相変らず市場に行けば息子の服から選ぶ。子どもたちからお小遣をもらえば、息子の糖尿の薬から買う。子どもたちが買い物をしてくれば半分は息子に持っていく。

このように、寛容で利他的な心はいったいどこからくるのか。小学校も通えなかったから、明らかに本で学んだことではない。学ばなくても彼女の心には陽明学でいう良知、すなわち倫理的な持って生まれた性格が内在していた。その良知の花が咲くのに多くは必要ではなかった。一人の子どもの母親であることで十分だった。母親を失った子どもに本物よりも本物の母親になった理由だ。