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父の涙

Posted May. 20, 2020 08:52,   

Updated May. 20, 2020 08:52

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母の涙を語る神話は多くても、父の涙を語る神話はそれほど多くない。ホメロスの叙事詩『イリアス』の最後の章に出てくる父の涙はそれゆえ格別だ。

トロイ王は、息子ヘクトルが死ぬと、地面に転げまわって泣いた。死んでも埋葬することもできない息子のために泣いた。体裁も何もなかった。息子の亡骸は馬車に縛られ、引きずられた。ギリシャ軍の将軍アキレウスは、ヘクトルを殺しただけでは怒りが収まらず、亡骸をそのようにさらした。友人がヘクトルに殺されたことへの報復だった。天も憤る悪行だった。

ヘクトルの父は怒り狂ったアキレウスのもとを訪ねることにした。死ぬことになると妻が引き止めたが、父は揺れ動かなかった。「息子を抱いて泣くことができるなら、私はアキレウスの手で死んでもいい」。彼は身代金として渡す財宝を車いっぱいに積んでアキレウスのところに行ってひざまずき、哀願した、「私を見て、私のように老いて無気力なあなた父を考えてみてください」。息子を殺したうえ、亡骸まで辱めた暴悪な敵軍の長の前で泣いた。彼は一国の王である前に父だった。しかし驚くことが起こった。アキレウスが泣き始めた。彼は、故郷で自分を待つ父を思い出して泣いた、若くして死ぬ運命を持って生まれた自分が死ねば、父も目の前にいる老人のように泣くことになる。アキレウスは亡骸を洗い浄め、青油を塗って服を着せて引き渡した。

亡骸がかえってくると、トロイは涙の海になった、ヘクトルの母と妻、息子をはじめ皆が泣いた。命をかけて敵将を訪ねた父の涙があったので可能だった哀悼の涙だった。ホメロスの「イリアス」は、涙が母親だけでなく、父親の領域でもあることを惜しみなく証言する。社会と文化が父親の涙を抑圧するが、父親も泣く。

文学評論家・全北大学教授