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「100万ドル」タクシー営業許可証の背信

「100万ドル」タクシー営業許可証の背信

Posted June. 01, 2019 10:24,   

Updated June. 01, 2019 10:24

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昨年11月、米ニューヨーク・クイーンズで韓国系タクシー運転手Aさん(58)が自ら命を絶った。親切だった彼の死に、同僚のドライバーや周囲の人々は大きな衝撃を受けた。米紙ニューヨーク・タイムズは、「ニューヨークでこの1年間で命を絶った8人目のタクシー運転手」と故人について伝えた。

韓国からの移民でタクシーを運転したAさんは、2017年に「タクシーオーナー」になった。1万3000しかないニューヨークのタクシー営業許可証(メダリオン)を57万8000ドル(約6億8800万ウォン)で購入し、「アメリカンドリーム」が叶ったかに見えた。その彼がなぜ自ら命を絶ったのか。Aさんの同僚は、同紙のインタビューに、「金銭問題のほかに理由がない」と話した。

 

ニューヨーク市と市議会は、タクシー運転手を死に追いやった主犯として、ウーバー、リフトなどのライドシェア会社を指定した。これらが、タクシー市場に食い込み、ドライバーの所得が減少したためだ。市議会は昨年、ライドシェアサービスのドライバーの数を制限する法案で対応した。それだけで相次ぐ死を説明できるだろうか。

 

同紙は先月19日(現地時間)、ニューヨークのタクシー業界関係者450人を取材した記事で、より根本的な問題を提起した。同紙は、「ウーバーが進出した2011年以降、ニューヨークのタクシー収入が10%減少したが、メダリオンの価格は96%下がった」とし、ニューヨークのタクシー営業許可証の「バブル崩壊」に注目した。また1937年に導入されたタクシー営業許可制度の弱点、タクシー業界とブローカーの「略奪的ローン」慣行を暴いた。

同紙によると、メダリオンの価格は2002年の20万ドルから14年に100万ドルに上がった。ニューヨーク市は、04年にメダリオン競売制度まで導入し、「一生に一度の機会」、「株より良い投資商品」と広告までした。メダリオンが高値で落札されるほど、ニューヨーク市の税収は増えた。

ローンは簡単だった。過去にはメダリオンの購入金額の40%は持っていなければ、ローンを組むことはできなかった。タクシー業界の信用協同組合は1ドルがなくてもローンを組み、3年内に返済する商品を出した。タクシー業界のブローカーは、ローン仲介で金を得た。90%が移民のニューヨークのタクシー運転手は、資本がなくても「タクシーオーナー」になることができるという夢を抱いた。

バブルがはじけ、「アメリカンドリームの保証手形」は「死の招待状」に変わった。ウーバーとリフトに押されて収入が減ったタクシー運転手は、ローンの返済に苦しんだ。営業許可証の価格は墜落した。金融会社は、ローンを回収するために家と所得を差し押さえた。メダリオンは競売に渡った。2016年以降、タクシー運転手950人が破産した。同紙は、「08年の金融危機の原因である住宅ローンバブルと似ている」とし、「メダリオンのバブルに対する警告は何度もあったが、当局が無視した」と指摘した。米紙ワシントン・ポストは、イェール大学ジャーナルを引用して、「(ニューヨークのメダリオンは)強力な利益集団の圧力に脆弱な政治的意思決定によって維持される非効率な私的所有権の事例」とし、「なぜ社会がこの産業を保護しなければならないのか」と疑問を提起した。

 

同紙の報道後、ニューヨーク州検察とニューヨーク市は略奪的ローンに対する真相調査を始めた。ニューヨークのタクシー業界が、「タクシーの収入は10%ではなく36%減少した」とニューヨーク・タイムズの報道に反論し、論議はますます熱くなっている。

政府の人為的なタクシー供給と価格統制、タクシー業界と金融会社のモラルハザード、略奪的ローンに対する不十分な監視などの構造的問題に耳を傾け、被害者救済への努力があったなら、少なくとも極端な選択は防げたのではないか。問題を新技術とライバルのせいにすることは、真実に背を向ける最も容易な方法にすぎない。