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急激な最低賃金引き上げが招いた現象の数々

急激な最低賃金引き上げが招いた現象の数々

Posted July. 05, 2019 07:37,   

Updated July. 05, 2019 07:37

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「46年間手がけてきた会社が、今年初めて2期連続の赤字を出しました」

中小企業社長のA氏の声には力がなかった。挫折も滲んでいるようだった。1998年、韓国が国際通貨基金(IMF)の救済金融を受けていた時期も乗り越えて赤字を免れたが、今はもっと厳しいという。

彼は、自社の最低賃金対象者に支給される総支給額を計算した紙一枚を見せた。時給は8350ウォンだが、ここに有給休業日数とボーナス、4大保険、退職金、その他の手当を含む企業の1時間当たりの負担金は約1万6800ウォンと書かれていた。

最低賃金がこの2年間で29%も上がり、適用時間も長くなったことで、経済の現場では疲労感が加重される様子が現れている。A氏は、最低賃金が上がったことで、新入社員だけでなく、既存の従業員の給料も少しずつ上げなければならなかった。その結果、2年前は毎年50億ウォン近く支給された賃金の総額が、今では55億ウォンと5億ウォンも増えた。2年前の会社の年間利益は5億~10億ウォンぐらいだった。

2期連続赤字の原因は、最低賃金引き上げのためだけではないが、少なくない影響を及ぼしことは明らかだ。コストなどの他の費用負担も増え、不況により売上が芳しくなかった側面も赤字の原因だ。A氏は、「人件費の負担は今後も毎年負わなければならないが、生産性はそれほど速く増えず、生涯初めて『事業を畳むべきか』と悩むことになった」と話した。A氏のものを購入するところも余裕のない中小企業なので、納入価格を大幅に引き上げることも難しいのが現状だ。

A氏の周辺には、事業放棄について悩む社長が多い。彼は、「最近は知人が集まった時、会社の事情が厳しいという訴えはもはやしない。その代わりに、『どうすれば、安全に事業を畳むことができるか』を話題に上げる」と伝えた。誰か事業をたたんだとすると、拍手をしながらお祝いまでする雰囲気だという。A氏は、「今年赤字を出せば、毎年納めていた数億ウォンの税金を一銭も払えないような気がする。もし私が事業を畳むことになれば、うちの職員たちの雇用はどうなるのかも心配だ」と話した。

急激な最低賃金引き上げは、自営業者を「雇用なき事業者」に追い込んでいる。京畿南楊州市(キョンギ・ナムヤンジュシ)で美容室を運営するB氏は、昨年までは補助スタッフを置いていたが、今では人件費負担のせいで「一人で」店を切り盛りしている。今年初め、つかの間スタッフを雇ったが、心の傷だけを負った。最低賃金と週休手当てをもらわなくてもいいから、技術だけを教えてもらいたいと言っていたスタッフが、一ヶ月間働いてやめてから、雇用労働部に通報したのだ。B氏は、最低賃金と週休手当てをすべて払い、罰金まで払わなければならなかった。彼女は「少なく働いて少なく稼ぐほうがいい、これからは二度とスタッフを雇わない」と話した。

大手企業の最高経営責任者(CEO)は、過ぎ去ったことだからと言いながら、大規模な工場を建設する途中、自動化に切り替えた事例を聞かせてくれた。彼は、「現政権発足以来、最低賃金を急激に引き上げる政策を目にしながら、経営リスクを減らす必要性を感じた。それで人間の代わりに自動化設備を増やした」と話した。最低賃金は、一度あがれば下げるのが難しいうえ、政治的状況によって毎年どのような負担を負うことになるか不確実な一方、自動化設備にかかる費用は予測が可能なので、経営に安定性を向上させることができるという論理だ。このように「生まれない雇用」は、統計にも入らない。

最低賃金引き上げは、過去の問題ではない。一度決まった最低賃金は1年間影響を与えるものではないからだ。最低賃金委員会は来年度の最低賃金の決定のために苦心している。先に並べた現状からもわかるように、資本主義社会で利益は力が強いという事実が、その決定過程に「正常」に反映されなければならない。


ホ・ジンソク記者 jameshuh@donga.com