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黄色いゴム靴

Posted March. 06, 2019 08:14,   

Updated March. 06, 2019 08:14

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幼年時代の経験と思い出が人生の貴重な種になることがある。トルストイ文学賞の受賞者であり、ノーベル文学賞候補に挙げられる韓国系ロシアの作家アナトリー・キムの場合もそうだった。江陵(カンルン)キム氏の子孫である彼は、カザフスタンで生まれ、幼年時代を送った。スターリンの強制移住政策によって少数民族が追いやられて住んでいたカザフスタン、一種の流刑地だったそこで過ごした彼の幼年時代は、貧しくて辛かった。

戦争直後なので、子供たちは靴を履ける余裕すらなかった。裸足で過ごさなければならなかった。そんなある日、父が市内に行ってアナトリー・キムに黄色いゴム靴を買ってきてくれた。うっとりしていた。臭いまで良かった。ところが、ゴム靴を履いて出て行った日、問題が生じた。のどが渇いたので、靴を川岸に脱いでおいて、川の深いところに入って水を飲んでは、靴をそのまま置いて家に帰ったのだ。夕方になってからそのことに気づき、川に走ってきたが、ゴム靴は消えてなかった。近くにいる牧童に聞いたら、川に水汲みにきた年寄りの焼物師が持って行ったと言った。

その老人は変な人だと言われていた。人々との付き合いが全くなく、家族がいなかったし、皺だらけの顔はいつも冷たく、悪意を持っているように見えた。老人は、アナトリー・キムの涙声を聞いて、外に出てきて、何のことかと尋ねた。意外に優しい声だった。高齢者はゴム靴を返して、まだ涙声の子供をなだめて見送った後、別れる時は頭を撫でることまでした。彼は変な人ではなく、暖かい同胞の高齢者だった。

少年はその老人の親しい声と行動、手を一生忘れなかった。それが少年には一粒の種となった。 「人間の善良さへの信頼」が彼の心に芽生え始めたのはその時からだった。「リス」「父の森」「ケンタウロスの村」などのようなアナトリー・キムの哲学的で幻想的な小説に染み込まれている人間中心主義は、その種が結んだ実だった。幼年時代の経験と思い出が、私たちに大切な理由である。



シン・ムギョン記者 yes@donga.com